=第一章=
[A Hit of Hunch]
第15話・赤の14標

 

 何度目ともなるか、分からない斬撃の後、男の心臓めがけて、マグデス王は突きを放つ。
 剣は、深々と男の胸に刺さり、そして、…その場で固まった。
「さあ、もう、諦めもついた事でしょう…」
 だが、男は胸に刺さる剣に目もくれず、対峙するマグデス王の顔を見つめ、…諭すように呟いた。
「ガイストの剣は、ガイストのものなのです。その剣は、ガイストが持つ事で普通以上の力を放つ剣なのです。…もう、お分かりですね?…王よ、…その剣の持ち主は、あなたではない」
 マグデス王は周囲を見る。
 この剣がダメならば、敵の武器を試せばよい。そう思い、刃こぼれてはいるものの、使えそうなロングソードを目ざとく見つけた。
「そして、今、その剣の持ち主は、ここに向かっている。だから、…」
 手に持つロングソードを手放そうと手を開こうとするマグデス王。
 しかし、それが出来なかった。…
 ロングソードの柄が蠢き、指を絡めとり、そして、血管のように細い管が這い出して、王の手に食い込み、皮と同化しているかのように…。
 両の手は固まり、剣は引こうと押そうと動きもしない。
「あなたの血が物語を始めるため、今、…死んでください」
「この剣は、ガイストの剣とは、お前は…なんだ…。これは、どういう事だ」
 男は、それでも睨み問いただすマグデス王の首に、指を添える。
 気道と食道に指を食い込ませ、…それから、マグデス王の問いに答えを告げた。
「物語の先を話せぬよう喉をくびります。ですから、あなたには真実を伝えましょう」

  徐々に、力をこめられ、喉の肉を指が抉り、喉の通り道を掴んで、…引き千切りながら、男は言った。

「ガイストとは、…道化の勇者なのですよ。アポロも…また、同じく。それから、私は[ADoBaiza]。そう、すべては、作られた物語。すべては、…物語なのです」


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