=第三章=
[Oldie's Lost Trial]
第5話・赤の58標

 

「…、勘…ですか…」アポロもまた、寝息を立てる頃、膝枕に眠るスティアをみつめながら、エディルが口を開いた。
「…本当に、勘…ですか?」
「…、…」
 エディルの独り言めいた言葉に、アドベルは答えない…。
 それでも、少しだけ、「そうですね…、そういう事にしていただけると助かります」と、だけ、返した。

 エディルとは、スティアに並ぶほどにクリス王女の信頼する存在であり、クリス王女の姉のように、警護を担い続けたその人でもある。血も繋がらないが、幼き頃のクリスの手を引いて、護身としての剣の手ほどきを行っていた訳だが、…それが元で男勝りで、マグデス王の連れてくる婚約相手をなぎ倒していく事ばかりには、王に申し訳ないと、彼女は思うばかりではあった。

 それでも、そんな信頼をおける人物を二人、アポロに仕わせた…この任務の重要性を思えば、アドベルの存在は、訝しげであるしかない。
 何より、事前に聞く王女の話と、スティアが今に見せた不快感を見れば、尚更である。

「…事の顛末は、あなたのいう[全て]の後、分かるのでしょうね」
「…、…」

 もう一言、エディルが呟くものの、…だが、アドベルは応えることをしなかったのだった…。

   …、…。…

ガクンっと揺れる馬車の衝撃で、アポロがすっと目を覚ました…。
どれほどまで眠りについていたのか、…分からないが…。鎧と硬い樫製の馬車床では、寝た心地はあまりしなかった…。
「起きた?アポロ」そう声をかけたのは、手綱を持つアドベルだった。
「眠れたかい?」
 アドベルはこちらに振り返る事無く、そう尋ねるのに対し、彼は「…いや、…」と、小さく否定をした。
「寝心地が悪くて、良くはない…ね」
「まあ、ベッドとはいかないよね」
 アポロの言葉に、アドベルは肩をすくめながら、顔は見せないものの、くすりと笑って見せたようでもあった。


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