=第三章= |
「な、なんだ…と」 自らの胸を貫く、そして自分の血を軽く塗らつかせた大剣を見つめ、震えながら面を上げるオルト。 眼前に立つ人影へ、再度眼光をぶつけようとして、…そこで気づく。 そこに人など立っていなかった。 白い霧で作られた…人らしい何かだった…。 「A,Adobizar!き、貴様、この煙の演出は、…演出がはっああああ!」 オルトが何かを喋ろうとするのを阻止するべく突き立てられた剣が錐揉むように回転し、オルトの心臓を確実に潰していく。 剣の峰を直径にした穴がオルトに空き、そこから心臓に流れ込むすべての血液が噴出し、そう、すべてが噴出していき、肺に残る空気が抜けるだけの死体にと変わっていき、…。 血の決壊がなくなる頃、剣がゆっくりと引き抜かれ、支えなくなったように階段下にと転がり落ちていく…。 それから、椅子の後ろより人が現れ、もう生きてはいないであろう…オルトの体の元に歩み、その体を突き刺した大剣の峰を広げ、振り下ろす。 ぷちゅん… 乾いた音と共に、その中に少しだけ残っていた血と脳漿が血の海に広がる。 剣をゆっくりと引き上げる。そこには、頭もなくなり、ミキサーにでもかけられたようなぐちゃぐちゃの、心臓と言われていたであろう臓器を露出させる老人の体だけがあった。 「今、終わったよ」 剣の血を振りぬぐい、納刀したそれが言った。 赤く長い髪をポニーテールにまとめた…優男の…アドベル、彼はそう言って、死骸に再度の一瞥もくれず、椅子の後ろにと歩みだし、自然と、ただ自然にとこう言った。 「あと少しだよ…アポロ。みんな…」 |