=閉幕=
第3話・赤の151標

 

 声が馬車の中に響くたび、エディルの名を、スティアの名を、そして、アポロの名を声高に祭り上げられる程に、
 スティアはその身を強く抱きしめる。漏れ出そうな嗚咽を必死に抑えても、溢れ出る涙で頬を濡らし、…「違う違う違う…」と、言い続けた。
 英雄として挙げる名に、[アドベル]はない。そう、あるはずもない。
 [アドベル]など、この物語には元からいないのだ。
 誰も彼も、[アドベル]の名を叫ぶはずがない。
 でも、スティアもエディルも、少しでも、ただ少しでも、…いい。
 彼らの中からの歓声から、[アドベル]の名を期待した。

  皆を救ったのは、アポロも救ったのは、…[アドベル]なのだ。
  しかし、歓声を上げる民衆は、知らない。[アドベル]などという存在は…。
 
 だから、民衆は、英雄の中に[アドベル]を叫ばない。
 分かっている。分かっている…。分かっているのに、…。

 エディルも、スティアも、…馬車を、…城へ進めるだけで、…もう、心が耐えれないほど、疲弊していった。

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