=第二章=
[Arrested Princess]
第36話・黒の37標

 

 歓声冷め止まらぬ中、戦闘で保っていた緊張が切れたように、ガクンとアポロが膝を付く。
「アポロ殿!」
 その息までもが止まりそうなアポロの元へ、魔導士が空より舞い降り、そして駆け寄った。
「御身、ご無事であり、何よりです」
「…あ、あなたは…」
 膝を付き、脂汗に蒼白な表情、まさに呼吸困難とも見えるアポロの質問に、「少し息をお整えを」と、彼の胸元へ手を添え、そして、小さな呼吸音をアポロの耳元へ響かせ、「回復をさせます」と、続けた。
 彼女の言葉に従い、アポロは息を整える事に専念し、しばらく…、彼の体がほのかな淡翠色光に包み込まれていき、顔に血色が戻っていった。
「さすがは、アポロ殿。回復も早い。やはり、他の方々と比べ、頑強でありますね」
「…、…。…」
 彼女の覗ける口元にニコリとした微笑みが浮かび、そう話しかけるも、しかし、アポロは少々の苦笑いを見せるだけにとどまったのだった。
「ご謙遜な御表情ですわ…。アポロ殿」
「…失礼、お名前は」
「スティア、と申します」
「ありがとうございます。スティア様」
 いつまでも無様な姿を皆に見せるべきではない、…と言わんばかりに、アポロは御礼と共に、自分と一緒に膝を付くスティアに手の平を上に差し伸べつつ、御礼を述べるアポロ。
「スティアでよろしくて。私など、アポロ殿に比べれば、…しがない薄汚れた魔導士の一人です」
 拒否の意思はないものの、どこか無礼を思えたのだろう、スティアはアポロの手の平の意図へ若干、躊躇を持った。…が、彼の好意をあしらう術もあしらう技量も持ち合わせていない彼女だったので、覗く頬を紅色に染めながら、彼のエスコートを受け取った。
 そんな彼女の手を引き、立ち上がったアポロ。そして、軽く彼女の言葉に否定を述べる。
「そんな事は、ありません。スティア…様、がいなければ、私は、この敵は打ち倒せなかったでしょう。」
 改めて、アポロは倒れた巨躯の鎧を見上げ、…そして、スティアを通じて伝えてくれるだろうと、言葉を続けた。
「魔導士の皆がいなければ、私はこの戦場を飛びまわれなかった。兵士の皆がいなければ、この都市を防衛なんて出来なかった。私一人では、何も出来なかった…。皆のおかげで、私は戦いぬけたのです」

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