血をモトメルモノ

 

 彼は草陰の中に潜んでいた。息を潜め、その背の羽を最小限の動作に押さえ、ただ獲物が来るのを待ち構えていた。
 彼の主食は、人間の血。それも生きた人間から吸い取った新鮮な生き血でなければ、

 …彼の喉を潤し、空腹を満たす事は適わなかった。
 
 彼は、その木陰にどれほどいたのだろうか…。空腹が彼を襲う。
 それは、出してはいけない気配さえ、自然と滲み出てしまうほどの空腹であった。
 それでも、彼は獲物を待ち、自分の狩猟範囲に入るのを待ち構えていた。

 ただ、その時を待ち構えていた。

 獲物だ…。
 身震いする程の歓喜が込みあがる。前に食事をしてから、どれほどの刻を待っただろうか…正直、彼自身でもわからないほどである。
 羽の振動が増える。獲物がいよいよ彼の狩猟範囲にと、足を踏み入れようとしているからだ。
 ストロー状の口先から荒く熱い息が篭る。獲物の肉に突き立て、血を吸い出す感触はいつ考えても、たまらないものだった。
 そして、獲物の苦悩を洩らす表情が見れることを思い、目元も嫌みったらしく歪んでいく。

 獲物が彼の範囲に足を踏み入れた瞬間、彼は全身全霊をかけて、飛び出した。

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