=記章=
[The Beginning]
第2話・黒の2標

 

 [AGOTOW]をガイストが封印してより月日が流れ、…
 一人の初老の男性がメシア国を治める王城のひときわ高い塔のバルコニーに佇んでいた。
 その者は、この国の王であり、若き獅子王と呼ばれていたマグデスW世であった。が、その頃に見せていた漆黒の御髪も全てが白髪となり、彫の深いギリシア彫刻の如き顔立ちも、皺を満たしながらも荘厳と威厳に満ちたものにと変わっていた。
 王はバルコニーより少しだけ陰る空模様の外観を臨み、少しだけ口元を結んだ少々険しい表情をしていたのだが、そんな王に対して、「お父様…、どうされましたか」と、背後よりうら若い女性の声が響く。
「クリス、か…」
 王は、背後の声にそう答え、振り返る。
 バルコニーへの入り口となるアーチを挟んだ部屋の中に一人のロングソードを携える女性用甲冑を身に着けた、王の言葉によれば、クリス、が立っていた。
 王の振り返りにクリスは微笑み、歩みを進める。
 藍色の瞳を持つ少し吊りあがった眼、端正な鼻筋に薄紅を施しただけのツンと澄んだ唇。
 立ち振る舞いの性もあるが、見方によれば、美男子ともとれる顔立ちのクリスが歩くたび、その長い蒼髪がなびき、大理石と甲冑の金属の接触する、カッカッ、という足音高く、毅然とした姿を見せながら、王の横にと着いた。
 そして、薄い唇に微笑をたたえ、王にと向ける…。

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