=記章=
[The Beginning]
第3話・黒の3標

 

 マグデス王は、そのクリスの微笑みに、…口元に蓄えた髭で隠すように…ほおっ、と溜め息を吐く。
 彼女は、この国においての第一王女であり、国民には親しみをこめ、<戦美の女神>と謳われる。
 そう、その通り名を示す通り、彼女は強かった。
 特に、その剣技においては、並ぶ者がおらぬと言われるほどであり、その美しい姿とは裏腹に、非常に男気高く、勇猛盛んであるのだ。
 無断で町に抜け出しては、酒場で大暴れは日常茶飯事、喧嘩っ早く、気に食わなければ、初対面であろうと神速の延髄蹴りが飛び、生半可な男ならば、空中一回転での昏倒間違いなしのおまけつき。
 かと思えば、市民には視線を同じくし、子供の世話を無償で受けたり、家事を手伝い、心砕けた店であれば、簡単な店番も引き受けるなど、気さく?とも感じる、そんな女性である。
 そんな女性であるからこそ、…マグデス王の心配は、貰い手がいるのか…。という事にある。
 彼女自身がその気のないのが、一番の心配であるのだが、
 それでも、何とか…と、思い、マグデス王が親身とする隣国に話を持ちかけ、見合いの席を持たせた事もある。…が、

 そこは彼女である。
 気に食わないの一言で、腰元のロングソードをちらつかせ、脅し…。
 屈しないと分かるや、ロングソードの鞘で半殺しにしそうになる(既に未遂も存在)。

 晴れぬ空と、晴れ晴れとした彼女の微笑とを見比べて、…、王は、ただただ見せぬように深く息を吐いて…、そして、吸い…。口を開いた。
「…いや、ただな、この空模様の悪さはなんだ、と感じたまで。の事…。」


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