=記章=
[The Beginning]
第12話・黒の12標

 

「あなた、あの英雄、ガイストの息子なんですってね」
 マグデス王の退室と共に、ケルバー兵士長の掛け声があがる。のを遮るように、アポロに話しかける者がいた。
 マグデス王の横に立っていたはずのクリス王女がアポロの横に立ち、頭二つほど高い彼を高慢な笑みで見つめる。
 その趣に、アポロは少しばかり兵士長に目線を向けると、「王女、手短に…」とだけ言い残し、他兵士を連れて、謁見の間を後にする。
「お手合わせ、いただけますか?」
 二人だけになった謁見の間。そして、彼女は帯刀する剣を抜き、彼の鼻先にと向ける。
 その表情は嬉々とし、舌なめずりでもしてみせようともしているようであった。
 だが、アポロの答えは冷めたものであり、…眼を伏せ、首を横に振る。
「申し訳ございません。王女よ」そして、その瞳を開き、彼女の顔を映しながら、言葉を続ける。
「私は、…父より剣術の手ほどきは受けておりません。王女の思うほどの腕前は持ち合わせては…いないと思います」
 アポロの言葉に、クリスの眉が上がり、少し落胆の溜め息を見えるように吐いてみせながら剣を収め、先ほどの溜め息と同じように言葉を吐き捨てる。
「英雄様は剣も持たず、何をなさって日々を過ごしておらっしゃっていたのやら。さぞ、お父様のお嘆きする様が、見てとれますわ」
 ただ、アポロは嫌な顔をせず、「…、申し訳ありません。王女」と非礼を見せ、それから、「失礼いたします」と、告げる。
 それから、踵を返し、謁見の間を去ろうとした時、「それでも」と、クリス王女が声をかけてきた。
「それでも、あなたにそれなりの腕前が備わったのならば、改めて、お手合わせ願えますかしら?」
 一時の間…が、流れ…。
 ゆっくりとアポロは振り返り、再度、頭を下げ、頭を戻した後、ニッコリと笑ってみせ、口を開いた。
「その時は、お受けいたします。麗しきクリス王女」

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