=記章=
[The Beginning]
第13話・赤の1標

 

 アドベルは一人、場内に設けられた訓練施設に向け、自分の武器を背負い、向かっていた。
 あの後、兵士長の簡略的な挨拶もあり、今日は一日、自分の泊室の整理を命じられた。
 …が、元々、彼の場合、その武器にこの身一つばかりと訪城した為、着替え荷物を置いて、部屋を後にし、訓練場に向かうと称した散策を行っていたのだ。
 その彼が歩くたび、まるで櫛を通したように風にたなびく赤く長い髪、そして、やはり、その顔立ちは男と呼ぶには語弊がある、といっても過言ではなく、場内の世話をする女中に挨拶をすると、皆が皆、彼の歩く姿と髪からであろう甘い匂いにうっとりとした表情で振り返り、アドベルの後姿を眼で追った。
 ただ、その後の数名は、目をキョトンとさせ口を呆けさせたり、少ししてクスクスと笑う者もいた。
 アドベルは自分の武器を背負っていた。それは、紫色の刀身を持つ大きな抜き身の剣である。
 その長さは、アドベルの身長とも劣らぬほどの物で剣身の幅も彼の腰ほどの太さであった。
 剣というよりも、大きな鉄板を担いでいるようにも見えるその姿は、彼の女性のようにたおやかな肢体に似つかわしくなく、不自然そのものであった。
 そう、アドベルのようなか弱そうな風貌の持つ武器とは、…到底…思えなかった…。

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