=記章= |
不意にアドベルは立ち止まる。 その耳に、誰かの声が耳に入ったからだ。 それは女性のものであり、甲高さはあるものの、ヒステリックと言うものではない。 周囲を軽く見回す。未だ渡り廊下の中腹で、声は先ほどまで歩いていた通りの方より聞こえた。 しだいに、声は大きくなり、それがはっきりと聞き取れるようになると、曲がり角より大きな茶色の毛玉が飛び出し、そのまま、壁面にぶつかり、コロンと跳ね返る。 「チロル〜!待ってよ〜!!」 と、やっと言葉がはっきりと聞き取れるまでに、声が大きくなると、毛玉はぴょんと跳ねて、辺りを見回し、アドベルに狙いを決めたのだろう。脱兎し、アドベルの足にまとわりつくと、するする〜と足を駆け上がり、垂れ下がるアドベルの髪にしがみついた。 たぶん、先ほどから聴こえる声の主から隠れる為であろう。と、思うアドベルの目の前に、ピョンっと、声の主が飛び出した。 服装は、先ほど、謁見の間で拝見したクリス王女と同じである。が、思いのほかに低身長。 そして、クリス王女の蒼く長い髪ではなく、薄茶のザンギリ頭。 見るからに、少女な風貌の彼女が辺りをキョロキョロとし、毛玉と同じくアドベルを見つけて、ピョンピョンと跳ねながら、駆け寄ってきた。 |