=記章= |
「ねぇね。お姉ちゃん。チロル見なかった?」 近寄ってきたドレス姿の少女の第一声はそれであった。 「…はは、僕は、お姉ちゃんじゃないですよ。…、なんとお呼びすればいいですか?」 「トゥア!だよ。お姉ちゃんはお姉ちゃんじゃないの?」 再び、お姉ちゃんと言われ、唇の端が少しヒクつかせながらも、アドベルはニコリと笑顔を返し、トゥアに聞き返した。 「チロルというのは、何かな?」 「チロルは、チロルだよ〜!知らないの?」 聞き方を間違えた、と考え、チロルが自分の髪にしがみついている物なのだろうと理解しつつ、アドベルは思案し、質問を変える。 「どうして、チロルが逃げ出したのかな?」 「お風呂に入れてあげようとしたんだよ。そしたらね。そしたら、逃げたの」 その答えに、アドベルは、なるほど…。と髪の方、未だしがみ付く毛玉に意識を向ける。 この毛玉、チロルはトゥアのペットである事、そして、チロルはお風呂を嫌がり逃げ出した事、 つまり…、この毛玉は動物。そして、形状からいって、旅鼠種のものであろう。と、アドベルは考え付いた。 |