=記章=
[The Beginning]
第15話・赤の3標

 

「ねぇね。お姉ちゃん。チロル見なかった?」
 近寄ってきたドレス姿の少女の第一声はそれであった。
「…はは、僕は、お姉ちゃんじゃないですよ。…、なんとお呼びすればいいですか?」
「トゥア!だよ。お姉ちゃんはお姉ちゃんじゃないの?」
 再び、お姉ちゃんと言われ、唇の端が少しヒクつかせながらも、アドベルはニコリと笑顔を返し、トゥアに聞き返した。
「チロルというのは、何かな?」
「チロルは、チロルだよ〜!知らないの?」
 聞き方を間違えた、と考え、チロルが自分の髪にしがみついている物なのだろうと理解しつつ、アドベルは思案し、質問を変える。
「どうして、チロルが逃げ出したのかな?」
「お風呂に入れてあげようとしたんだよ。そしたらね。そしたら、逃げたの」
 その答えに、アドベルは、なるほど…。と髪の方、未だしがみ付く毛玉に意識を向ける。
 この毛玉、チロルはトゥアのペットである事、そして、チロルはお風呂を嫌がり逃げ出した事、
 つまり…、この毛玉は動物。そして、形状からいって、旅鼠種のものであろう。と、アドベルは考え付いた。

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