=記章= |
城の演習場の小脇に、小さな水路が通っている。 戦時はここも用水路として使われるが、普段は装備の洗浄や城内の洗濯類にもっぱら使われるものである。 その場に、小さなタライを片手に下げるアドベルと頭にチロルを乗せたトゥアが向かっていた。 「ねえ、ねえ、早く〜!早くったら」 トゥアが先に水路の板場に着くと、大きく手を振ってみせる。 「分かりました、トゥア様」 そう言われて、アドベルは少しばかり足を速める。 それから、板場に着くと、タライに水を掬い、チロルを両手に抱えるトゥアの前に置いた。 「さあ、どうぞ。トゥア様」 横に腰を下ろし、顔の映るほど透き通った水の張るタライに、どうぞ、と手の平で指し示す。 ドッパ〜〜…ン 瞬間、鏡のように澄んだ水面が大小の水玉を巻き上げ、周囲を煌びやかにする。 |