=記章= |
「トゥア、こんな所にいたの」 凜とした女性の声がトゥアとアドベル、その二人の元に届いた。 その声で、トゥアは振り返り、「あ、お姉ちゃん!」と、声上げる。 そして、優しく撫でるように洗っていたチロルを大きく振り上げ、ブンブンと振ってみせる。 「トゥア様、優しく…、優しくです」 少々、目を回し気味のチロルの様子に、アドベルは再度、諭してから、一歩下がり、片膝をついた形で声の主、クリス王女の来るのを待っていた。 「トゥア…」 「見て見てぇ、ほら、綺麗にしたよ」 少しだけ、苦言を言おうとした出鼻を挫くトゥアの笑顔に、クリス王女の顔がほがらかさに軽く歪む。 が、「トゥア、お勉強の時間よ。先生がお待ちよ」と、言葉を続けた。 「…、…。」 お勉強と言う言葉に、トゥアの顔が曇り、プイッとそっぽ向いたのに、「ト」「トゥア様」、クリスが少し強めに言おうとする言葉に、アドベルが言葉を重ねる。 「トゥア様、姉姫様が困っておいでですよ。姉姫様に悲しい顔をさせて、よろしいのですか?」 アドベルの言葉に、トゥアは首を横に振るものの、「勉強、…つまんない…」と、ブ〜と頬を膨らませる。 そんなトゥアに対して、アドベルは、ニッコリとして、「トゥア様」と、言葉を切り出した。 「私も、子供の頃の勉強は嫌いでした。でも、トゥア様。勉強の中には、今しか出来ないものもあります」 トゥアがアドベルを見て、「お勉強の後、遊んでくれる…?」と、言葉を漏らした。 そうして、アドベルはかしずいた。 「私めでよければ…」 |