=記章=
[The Beginning]
第19話・赤の7標

 

「トゥア、こんな所にいたの」
 凜とした女性の声がトゥアとアドベル、その二人の元に届いた。
 その声で、トゥアは振り返り、「あ、お姉ちゃん!」と、声上げる。
 そして、優しく撫でるように洗っていたチロルを大きく振り上げ、ブンブンと振ってみせる。
「トゥア様、優しく…、優しくです」
 少々、目を回し気味のチロルの様子に、アドベルは再度、諭してから、一歩下がり、片膝をついた形で声の主、クリス王女の来るのを待っていた。
「トゥア…」
「見て見てぇ、ほら、綺麗にしたよ」
 少しだけ、苦言を言おうとした出鼻を挫くトゥアの笑顔に、クリス王女の顔がほがらかさに軽く歪む。
 が、「トゥア、お勉強の時間よ。先生がお待ちよ」と、言葉を続けた。
「…、…。」
 お勉強と言う言葉に、トゥアの顔が曇り、プイッとそっぽ向いたのに、「ト」「トゥア様」、クリスが少し強めに言おうとする言葉に、アドベルが言葉を重ねる。
「トゥア様、姉姫様が困っておいでですよ。姉姫様に悲しい顔をさせて、よろしいのですか?」
 アドベルの言葉に、トゥアは首を横に振るものの、「勉強、…つまんない…」と、ブ〜と頬を膨らませる。
 そんなトゥアに対して、アドベルは、ニッコリとして、「トゥア様」と、言葉を切り出した。
「私も、子供の頃の勉強は嫌いでした。でも、トゥア様。勉強の中には、今しか出来ないものもあります」
 トゥアがアドベルを見て、「お勉強の後、遊んでくれる…?」と、言葉を漏らした。
 そうして、アドベルはかしずいた。
「私めでよければ…」

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