=第一章=
[A Hit of Hunch]
第10話・黒の21標

 

「ディアアアア!!」
 マグデス王は怒声と共に、手に持つロングソードを横なぎに振るう。
 一閃。
 剣の軌跡の先にいた[Thig]共は首と胴が離れ、どぉうっと、倒れる。
 そして、その体から微かな湯気が上がると、一瞬にして土くれと化していった。
 だからといって、奴らは怖気づく事もなく、大軍勢を勢いに、押し寄せる。
「王、出すぎです!!一歩お下がりください」
 次々と遅い来る[AGOTOW]の一群を先頭に立ち、薙ぎ払い続けるマグデス王の行動に、後方を守るケルバーがいさめの言葉を投げかける。
「むう、…すまぬ」
 王も気づいたのだろう。一度だけ、孤を描く剣を浴びせ、軍勢より一歩引く。

  そびえる城壁を背後に後方部隊が遠方の[AGOTOW]へ長弓での矢の雨と強力な炎氷の散開掃射魔法を繰り出し、乗り切った手勢を先陣隊がこれをなぎ払う。
  だからといって、[AGOTOW]の軍勢は気おされる事もなく、死の恐怖等無いとばかりに、行軍を続け、城壁の城門を破壊しようと迫りくる。
  始めのうちには、拮抗を保っていた両軍の陣営であったが、それは徐々に崩れつつある。
  途切れる事のない[AGOTOW]軍勢は勢い衰える事無く、北方より現れる。
  そう、徐々に、城の軍勢は押され、こじんまりとし始めていた。

「ケルバー。状勢は」
「芳しくはありません」ケルバーの率いる大隊の前にまで引いた王の質問にケルバーは苦言を述べる。
「奮闘はしておりますが、…近戦部隊の数隊が、既に撤退体勢です。このままでは、城門前を捨てる他ありません」
「そうか…」
 ケルバーの言葉に、王は唇を占める。そして、ケルバーに一つの伝令を発した。
「無謀な事ではあるが、今より個人遊撃部隊を編成伝達せよ」
「個人遊撃?」
「そうだ。この尖兵どもは捨て駒よ。遠方へ向け、雨霰と攻撃するのは、そこにこの尖兵を魔力で生み出す者が隠れており、それを討ち取る為だったが、…昔のようにはいかぬようだな」
 王はまた、数体を薙ぎ払うと剣を構えなおし、ケルバーに言葉を続ける。
「伝令内容は、中隊以上で志願者1名ずつ。陣形より突出し、周囲の魔力者の捜索、発見による排除行動。同一遊域が合わさらぬよう、遠視連絡魔法を扱える者を城壁上に集め、指示を出させよ」
「分かりました。では、この部隊からは」
 王の言葉にケルバーが自らがと、名乗り出るよりも先に「わしが出る」と、王が言った。
「何、この[AGOTOW]との戦闘、唯一、その術を全て知る者が突入するが、効率が良かろう。このような輩に負けるようで、何が王よ…。ケルバー、総指揮を任せたぞ」
「マグデス王!!」
 ケルバーが、走り出す王を止めようと、声を張り上げた。…

  しかし…、王は既に、[AGOTOW]のひしめく軍勢の中へと消えていたのであった…。


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