=第二章=
[Arrested Princess]
第4話・赤の27標

 

 別邸は、城の東側に建つ、高い塔を備えた石造りの建物である。
 元々は、刑収容所を兼ねていた物であったが、[AGOTOW]との戦乱の末、その強固さを利用し、医療施設と食料保管施設を両設するものとなった。
「ご苦労様」
 その扉の警護に立つ二人の男性兵へ労いの言葉をかけつつも、クリス王女はその足早さは変えず、中へと入っていく。
 が、まだ、戦中であるかの如き、呻きと怒号が響く建物内に、目を奪われて、クリス王女は軽い立ち往生をした。
 むせ返る血の匂い…。激痛の戦慄き。そして、…それでも、治療の間に合わなかった者が外へと運び出される慌しさ。
 医者と看護の交錯する声とさらに、兵との物資交渉を伴う声と、…

  未だ、癒えない傷だけを押し込んだかのような…身の毛の凍る光景が広がっていた。

「これはクリス王女、どうされました」
 唇に血の気の引く光景に足が止まっていたクリス王女に一人の老医師が声をかける。
「あ、いえ…。一人、少し事情を聞きたい者がいたので、着たのだが…」なんとか上ずりそうな声を押しとめ、…それから一息をあけてから、クリス王女は老医師に問いを投げかけた。
「トゥアの警護兵である、アドベルは、搭上の方であるな」
「え、ええ。ただいま、妹姫様もおいでの御様子です」
 その問いに、少し戸惑いの声色でもって老医師がそう答えるのに、「トゥアが?」と、少し間抜けた言葉を漏らすクリス王女…。
 それから、少しだけ、眉をひそめつつも、「分かりました」と、だけ告げ、それから、再び、開けた広間に横たわる兵士の山を見つめる。
「物資、医療も足りてないようですね。動ける兵の何名かを城下に回し、使えるものを集めさせておきましょう」


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