=第二章=
[Arrested Princess]
第5話・赤の28標

 

 未だ城外は血風吹き荒れるかの如き、ねたついた風音が響く。
 その外の風景を臨めるいくつかの小窓を横に、クリス王女は、足取り重く、そしてゆっくりとあがっていく。
 徐々に近づいていくアドベルの病室。
 彼女の心は、様々な感情に囚われていき、歩を進めるごとに混在していく。
 それは、愛とか憎とか悲とか喜とか単一的なものが混ざり合っていった物ではなく…。
 そう、何かをまとめ、そして、それが一つにとなっていた…。
 その感情に支配されたクリス王女だからこそ、…「あの?王女?」…と、いうアドベルの病室の前に立つ。トゥア王女の付き添いでその部屋の前に立つ警護女性兵の疑問詞がなければ、通り過ぎて屋上にと上がってしまったようである。
 女性兵の声に「ふぁい」という、王族の威厳もない返事をし、踵を返し、…それから、取り繕うと軽く「えへん」と咳払って、「トゥアが、きていると?」と、尋ねるクリス王女。
「あっ、はい」
少しばかり返答の言葉をつまらせながらも女性兵はそう答え、「お入りになりますか?」と、付け加える。
「…、…。そうね。少し、…アドベ…、ル…に聞きたい事があるのでね」
 女性兵へ、少しばかりばつの悪い姿を見せた自分に悔やみつつ、クリス王女は数歩折り返し、部屋の戸の前と立った。…が、色々と決めかねているようで、少し戸のノブを手持ち無沙汰にいじくった後、腹をくくったのか、ある一つの言葉を選び出し、そして、戸を開く。
「失礼する」

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