クリス王女が戸を開けた瞬間、固まった。 
          奥のあるベッドの前の床に広がるのは、…   紙、紙、紙…。そして、紙である。 
         その紙は、たぶん、勉強用として使っていた物であろう、つたない文字の上を鮮やかな色彩が塗りつぶしていた。そして、この紙の海の中、桃色のドレスの島がちょこんと浮かび、何かをしてるのだろう。事の分かる鼻歌さえも聞こえてくる。 
        「王女、怒らないであげてくださいね…」 
         部屋の番をしていた女性兵は知っていたからこそ、少し苦渋的な笑みを浮かべながら、王女にだけ聴こえるように、小さくお願いを申し出て、カチャリと、戸を閉める。 
         先ほどとは違う、様々な感情が押し寄せ、そして、…一つにまとまりそうになった時、「できた〜」と、桃色のドレスがど〜んと立ち上がり、「お兄ちゃん、お姉ちゃんが出来たよ〜」と、ベッドの方に走りよっていく。それはまぎれもなく、トゥアであった。 
        「どうどう?どう???」「え、ええ、上手ですよ」 
         そして、そのベッドの上に上半身だけを上げる人物、それがアドベルである、が、クリス王女の存在に気づいていたからこそ、目線をクリスにもトゥアにも、と、彷徨わせながら、少しだけ困ったような口調で誉めているところを見せていた。 
         |