=第二章=
[Arrested Princess]
第7話・赤の30標

 

「あ、お姉ちゃん」
 そんなアドベルの態度に首をかしげ、それから、クルリと後ろを見たトゥアが嬉々として、声を張り上げる。
「これ、お姉ちゃん!」
 と、ブンブンと、手を振り、クリス王女の元へ駆け寄っていく。
 そんなトゥアが足元に来て、さも嬉しげに差し出す、自分を描いたであろう用紙越しにそんな幼子の顔を見つめ、それから、フッと笑って見せた。
「ありがとう、よく描けているわよ」
 戦時中、…ここは咎めるべきであろう、…下にいる者達を思えばこそ、だが…。
 クリス王女は敢えて、そのような事をしなかった。

  トゥアもまた、王女なのだ。

 自分が戦時に立ち、居なくなった時、もうトゥアしかいないのだ。
 だが、そんな事を幼子にまかせれるものではない。きっと、その重圧で、この笑みさえも失われるであろう。
 ならば、…、今は一時だけでも、笑みを満面に浮かべれる素敵な一時を与えれるこの空間を、
 例え、偽りにも感じられるこの優しい空間を壊さないでおこう。

  クリス王女は、そう考え、優しく微笑み、トゥアの頭を撫でてあげる。

「トゥア、お姉ちゃんはね、少し、アドベルさんとお話がしたいの。だから、向うの方で静かにお絵かきを続けなさい」


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