=第二章= |
振り上げられたトゥアの腕に、黒い手が掛かる。 手の主は、その小さな窓から伸びていた。 「トゥ」その手が、引かれる刹那、 「アーーーーーー!」 クリスは叫び、駆け上がり、窓にと消えるトゥアに向け、手を伸ばし、空ぶった。 その身を窓へ向け、窓縁に手をかけ、身を乗り出そうと、力をこめた。 「王女!」 その手を引き止める手。その腕は包帯が巻かれたままのアドベルであった。 「止めるな!、止めるな!!」 蒼ざめと紅潮と涙溢れん瞳をアドベルにぶつけるクリスへ、アドベルはただただ、優しさを湛える瞳を凛とさせ、静かな口調でもって、彼女へと言葉を紡ぎだした。 「これは、僕の仕事です。王女」 「…、…。…アドベル…」 「僕の仕事なのです。王女」 アドベルの言葉。その二度に渡る同じ言葉へ、唇を咬み、眼差しに炎を湛え、腹の贓物を搾り出すかの如き声でもって、クリスは、「貴方は、何を、知ってるというのですか!」と、問いただす。 その言葉に、アドベルは目を伏せ、視線を他所に振り、「トゥアは、僕を呼び出す為の口実なのです」と返し、そして、続けた。 「僕は、王女を悲しませたくない。もう、悲しみはたくさんだ!この悲しみを止める為に、僕は訪れた。絶対に、僕は、トゥアを守ってみせます!」 そして、顔を前へ正し、その両の目でもって、クリスの瞳を見つめ返した。 「王女、僕にトゥア王女の救出の命をお与えください!お願いいたします!」 |