=第二章=
[Arrested Princess]
第15話・赤の38標

 

 −塔の屋上

 そこに、包帯を全身に巻きつけた上で上着と装備を着、背中に大きな剣を背負うアドベル。
 クリス王女と。
 一人の女性魔術師の姿があった。
 背丈の程は、アポロとも比べれば、子供に思えるアドベルよりもさらに小柄な体躯であり、真っ黒なローブでもって、全身の体型を見せないものにしていた。
 ただ、その顔の部分のみは覗け、真っ白い肌に肌と同色に近い薄色の唇、少し長めの銀のもみ上げだけを二人の前に見せていた。
「彼女はスティア」クリスは、そう言って、アドベルを見る。
「と言っても、貴方自身、お世話になってるから、説明は要らないわね…」
 その言葉に、アドベルは頷き、包帯だらけの腕をさする。
 事実、アドベルが発見された時、全身は焼けただれ、死体と思われても仕方ない重症であった。
 その傷を癒したのは、他でもない彼女、スティアである。
「彼女は治癒ばかりではない、あらゆる魔法術に長けた、この城の秘蔵の魔術師よ。そして、彼女だけが、移動魔法を使える魔術師」
「クリス王女、ありがとうございます」
 クリスの説明に、アドベルは陳謝した。それに、クリスは唇を咬み、視線をそらす。
「本当に、これだけでいいの…アドベル。もっと兵を連れてもいいのよ…」
「…、…。王女」ただ、クリスの申し出に、アドベルは首を横に振った。
「僕は、あなたへもう一つ、お言葉をお伝えしなければなりません」
 そのアドベルの言葉に、クリスは面を上げた。
「奴らの第二陣がまもなく訪れます。…そう、もうまもなく」
「本と…、いえ、貴方はの言葉に嘘はないのでしょうね」
「その為にも、私などよりも、城を守る布陣にお使いください。そして、本陣にもうお戻りになる事を、僕は望んでいます」
「…。分かりました」
 クリスは、もうアドベルに問いただす事もなく頷き、最後に「トゥアをどうか、よろしく…」と告げ、塔の階段へと歩を進めた。
 それを見送った後、アドベルは踵を返し、スティアを見つめる。
「北部見張り塔へ飛んでいただけますか…?」


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