|  −塔の屋上  そこに、包帯を全身に巻きつけた上で上着と装備を着、背中に大きな剣を背負うアドベル。 
         クリス王女と。 
         一人の女性魔術師の姿があった。 
         背丈の程は、アポロとも比べれば、子供に思えるアドベルよりもさらに小柄な体躯であり、真っ黒なローブでもって、全身の体型を見せないものにしていた。 
         ただ、その顔の部分のみは覗け、真っ白い肌に肌と同色に近い薄色の唇、少し長めの銀のもみ上げだけを二人の前に見せていた。 
        「彼女はスティア」クリスは、そう言って、アドベルを見る。 
        「と言っても、貴方自身、お世話になってるから、説明は要らないわね…」 
         その言葉に、アドベルは頷き、包帯だらけの腕をさする。 
         事実、アドベルが発見された時、全身は焼けただれ、死体と思われても仕方ない重症であった。 
         その傷を癒したのは、他でもない彼女、スティアである。 
        「彼女は治癒ばかりではない、あらゆる魔法術に長けた、この城の秘蔵の魔術師よ。そして、彼女だけが、移動魔法を使える魔術師」 
        「クリス王女、ありがとうございます」 
         クリスの説明に、アドベルは陳謝した。それに、クリスは唇を咬み、視線をそらす。 
        「本当に、これだけでいいの…アドベル。もっと兵を連れてもいいのよ…」 
        「…、…。王女」ただ、クリスの申し出に、アドベルは首を横に振った。 
        「僕は、あなたへもう一つ、お言葉をお伝えしなければなりません」 
         そのアドベルの言葉に、クリスは面を上げた。 
        「奴らの第二陣がまもなく訪れます。…そう、もうまもなく」 
        「本と…、いえ、貴方はの言葉に嘘はないのでしょうね」 
        「その為にも、私などよりも、城を守る布陣にお使いください。そして、本陣にもうお戻りになる事を、僕は望んでいます」 
        「…。分かりました」 
         クリスは、もうアドベルに問いただす事もなく頷き、最後に「トゥアをどうか、よろしく…」と告げ、塔の階段へと歩を進めた。 
         それを見送った後、アドベルは踵を返し、スティアを見つめる。 
        「北部見張り塔へ飛んでいただけますか…?」 
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