… … … 暗がりの路地裏、そこに一つの音が響く。
ビチャビチャと、生臭い音が響き、その音源の…人の足元で鳴り響く。
そして、ひとしきり、…響いた後、石畳に膝を着いた時の金属音、それから、呼吸荒く、噎び泣くような男の声。
その人は、…そう、その男とは、アポロだった。
立ち上る自分の嘔吐した吐物の匂いに、さらに気分を悪くしたらしく、ゲーゲーと、何もなくなって胃液ばかりを上乗せさせ、…それでも、面を上げず、噎び泣く。
彼は、スティアにお礼を言い終えた後、負傷者の搬送にと向かう彼女を見送った。
そして、城にと帰路する事を近くの兵士に伝えた後、この路地裏にと歩を進め、…しばらく駆けた後、誰の声も響かぬこの場で、吐いた。
知られぬよう、知られぬようにと、…だが、狭い路地には彼の大音響にも聞こえる餌付き。
吐きに吐き、吐いて吐き、そして、胃液さえも振り絞ったノドからは、…ただただ弱弱しい息だけが漏れる。
そう、これが自分の自由になった最初にした行動だった。
やっと、意思と体が繋がった事で、…意思を離れ、肉体の限界を超えた行為の末、…全身の苦痛が胃を締め上げていき、ただただ、吐いたのだ。
一心地後、涙目のまま、…自らの腰に下がる剣を見た。
もちろん、剣は語らない。語るはずもない。だが、…あの感覚には、正直、アポロは剣をかなぐり捨てたいとさえ、思わせた。
一時であれ、剣に八つ当たりもしたい。そう、しても構わない。構うはずがない。そうとも思っているのに、いざ、剣を目にした瞬間、手を伸ばそうとした瞬間、体の硬直が生まれる。
意思がまた、一瞬切り離される…。
もちろん、剣は語らない。語りだすはずも無いのに、…剣は、やはり、笑っているようだった。
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