=第二章=
[Arrested Princess]
第40話・赤の53標

 

 突如、部屋に稲光が走る。しかし、その稲光には付き物と言える轟音は無く、部屋を破壊するほどの電撃にも見えたそれは、アドベルの体に被さる毛布だけを焼き破り、まるで縄で縛りあげるかのように、彼の体にと絡まり、宙に持ち上げた。
「間者め!」スティアが叫ぶ。
「貴様は何を知っている!何を行うつもりだ!」
 語気荒れる彼女の言葉発せられる中、人間の肉の焼ける匂いが立ちのぼり、電気ショックでも喰らうように大きなけいれんを見せるアドベル。
 だが、肉も焼けるほどの威力を食らったはずであるのに、息する程も苦しいともとれるゼヒゼヒ声も漏れるのに、…電撃に縛り上げられる彼の体は無傷そのものと言っていいほどに、艶々しい肌を見せていた。
「正直な答えを求める。答えねば、今のように、激痛と回復を間断なく食らわせる!」
 スティアの激昂はあってしかるべく、…とも言わんレベルの怒号でもって、スティアがアドベルに詰問をした。
「全ての役目とはなんだ!」無言。
「あの塔での女はなんだ!」無言。
 瞬間、部屋が瞬煌し、アドベルのくぐもった声が響いた。
「まさか、トゥア様も攫われる事も!」
「…スティア、お辞めなさい」
 三度目ともなるかもしれないスティアへのイキリへ、ただ物静かな声でもって、クリスは中止を要請した。
「あなたのしている事には、一定の体を私も感じています。そして、…あなたの手段を瞬間でも、容認してしまった私も情けない…。…本当、情けない…」
 そう、クリスは詫び、アドベルに頭を下げた。
「…言えない事情、が、あるのでしょう。本当に。もし、言えば、…それは、皆に及ぶ程の重大な何か…「「あと少しです」」を…。」
 そこまで、言ったクリスの口を遮るように、アドベルは声を挟んだ。
「それが終われば、…すべてお話しします。それが、終われば…」
 そして、再び、口を閉ざすアドベル。
「…わかりました。私は、私達は、何をすればよろしいのでしょか?」
 アドベルの言葉を待っていたクリスだったが、一向に返答のない様に、小さく口を開く。
 その彼女の言葉に、アドベルは口を開いた。

「アポロに、…アポロに、ガイストの軌跡を追わせてください。資料は、あなたのお父様、マグデス王の書斎にあります…。その際、私もアポロに同行させてください。お願いします」

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