=第四章=
[ADOBEL]
第25話・赤の110標

 

「それはやはり、受け取れません」
 再び、それでもと差し出されるアドベルのリボンへ、彼女は首を横に振る。
「私は、あなたに死んでほしくない…から。…それが本当に、無理なことであったとしても、私は、私たちは希望を捨てません」
 夜もあけるような、空模様。もう無理強いはできないと悟ったアドベルは、スティアに背を向けた。
「どうして、自分が死ぬと分かって、皆を助けようと思ったのです?」
 その背に、スティアは言葉を投げかけた。
「[人間]を見たから」
 アドベルは振り返らず、…答える。
「[超能力者]達は迫害を受け、ただ[超能力者]というだけで、[地球]に投獄された。それでも、[超能力者]達は生きて、今、街を作るほどになった。…トゥア王女のような笑顔があふれ、懸命であり、それでもつかみ取った平和だった。それを[人間]は、ただただ楽しみのためだけに壊し、殺す」
 紅い髪がなびく。
「僕は作られた[AGOTOW]だ。[超能力者]でもない。でも、アポロは僕を兄と慕い、村人もやさしくしてくれた。僕は、これから何が起こるのかを知ってるのに、…その人たちが死ぬことも、アポロの生末も…。その時、思ったんだよ」
 朝日が昇る。アドベルの姿がかすむ。
「僕は、…プレイヤーの動きを修正するために、[人間]の作り出した物語の筋書きを少しだけでも変えれる唯一の役柄だった。僕は死ぬけども、アポロの行く末を[人間]から解放できる。[人間]の思惑に歯牙を入れ、束の間であれ、[超能力者]達に[自由]を…そして、」
 風景が白くかすむ
「僕の妹にはさせてあげれなかった…それをトゥア王女へ、平和の中での本当の笑顔を…」

次に進む/読むのを終了する