=記章= |
マグデス王は、そのクリスの微笑みに、…口元に蓄えた髭で隠すように…ほおっ、と溜め息を吐く。 彼女は、この国においての第一王女であり、国民には親しみをこめ、<戦美の女神>と謳われる。 そう、その通り名を示す通り、彼女は強かった。 特に、その剣技においては、並ぶ者がおらぬと言われるほどであり、その美しい姿とは裏腹に、非常に男気高く、勇猛盛んであるのだ。 無断で町に抜け出しては、酒場で大暴れは日常茶飯事、喧嘩っ早く、気に食わなければ、初対面であろうと神速の延髄蹴りが飛び、生半可な男ならば、空中一回転での昏倒間違いなしのおまけつき。 かと思えば、市民には視線を同じくし、子供の世話を無償で受けたり、家事を手伝い、心砕けた店であれば、簡単な店番も引き受けるなど、気さく?とも感じる、そんな女性である。 そんな女性であるからこそ、…マグデス王の心配は、貰い手がいるのか…。という事にある。 彼女自身がその気のないのが、一番の心配であるのだが、 それでも、何とか…と、思い、マグデス王が親身とする隣国に話を持ちかけ、見合いの席を持たせた事もある。…が、 そこは彼女である。 晴れぬ空と、晴れ晴れとした彼女の微笑とを見比べて、…、王は、ただただ見せぬように深く息を吐いて…、そして、吸い…。口を開いた。 |