=記章= |
「マグデス王」 空を見やる二人の背後より、かしこまった口調の声で持って、王に話しかける者がいた。 そして、王と、続いて、クリスも視線を落とし、声の主に視線を向ける。 目に付くのは、ざっくばらんという単語の浮かぶ、手入れがされているのかされていないのか、そのような風貌の様々に飛び跳ねる短い毛先を持った短めの黒髪だろう。 ついで、綺麗な直立と真っ直ぐな黒い瞳の眼差しと張りを感じる日やけた肌が眼に飛び込む。 ただ、若干、着込んだ青銅の鎧は着せられた感がになめない…。そんな印象を持つ。好青年が立っていた。 マグデス王は改めて、姿勢をただし、その者の言葉を待つ。 「マグデス王。今期の兵士志願者の選定、及び、人事が終わりましたので、お言葉をいただきにまいりました」 「そうか、もうそのような時期であったか…」 マグデス王は、少々、呆けたように眼を見開いて、「あい、分かった…」とし、言葉を続ける。 「ご苦労であった。ケルバー兵士長。整えた後、出向こう」 「御足労、痛み入ります。それでは、新兵を謁見の間にと、通しておきます」 慄然とし、王の言葉に深々と頭を下げた青年・ケルバーは、綺麗なターンを見せ、部屋の出口にと歩いていく。 「お父様」ケルバーのいなくなった部屋にと歩を進めかけた王にクリスが話しかける。 「私も御一緒、よろしいでしょうか?」 その言葉を背面越しに聞いた王は、やはりか…と、見えないように息を吐く。 彼女の要件は分かっている。練習相手という生贄を探したいのだろう…。 分かってはいるものの、王はゆっくりと体を返し、にっこりと微笑む。 「まあ、良かろう…。ただ、せめて、会見するのであれば、せめて、正装をしてきなさい」 それでも、可愛い娘である。無碍に断る理由などあろうか。 それに新兵には悪いものの、城下で悪さをする事を思えば、目の届く城内にいてもらうほうが、幾分かマシであるのは確かだ。それが、王の本音であるが… 「ありがとうございます。お父様」 クリス王女のパッと晴れた笑顔に、王は微笑み、駆け出す王女の姿を見やった。 ただ、部屋から消えて、パタン…と、ドアの閉まる音が聞こえると、…やはり、ため息が出てしまう王ではあった。 |