=第一章=
[A Hit of Hunch]
第16話・黒の23標

 

 伝達への志願をしたアポロは、目の前の[AGOTOW]をなぎ払いながら、進む。
 彼の振るう剣に切り裂かれた[AGOTOW]はことごとく、土くれと帰り、彼の進んだ後を小さな土山で埋めていく。
 それにかまう事無く、アポロは先を急ぐ。…

  そう、胸に嫌な予感があったからだ。

 そして、その嫌な予感は、別の方向で、…だが、あってはならない事柄が起こってしまっていた…。

 進む先に、一際、集団となり、中央で何かを攻撃する[AGOTOW]の群れを見つけ、
 彼は、その手に持つ剣を振り上げる。
 その一角を削り取った瞬間、群れは蜘蛛の子を散らすように、逃げ去り…。
  敵中であるのに、静寂が訪れる…。

「そんな…、…」

 目の前に転がるのは、マグデス王であった。
 そう、マグデス王であったはずの老体が転がっていた。

  あの美しく輝く白い甲冑は、ボコボコに凹み、王の血で汚れ、剥き出しの肌は全て赤黒く変色したかのように、殴打後が見える。

 アポロが王の元に駆け寄ると、王はうつろな表情でアポロを見た。
  そして、アポロは王は助からない事を知った。
 王の喉元は半分ほどになり、もう涸れたのか、血も流れ出してはいない。

 王の口が動き、「アポロ」と、喋ろうとしていたが、ヒューヒューと、壊れた笛と同じ音だけが、響く。
 そして、王はもう残り僅かだろうか、その手に持つ剣の柄をアポロに向けた。

  アポロがその柄を掴むと、…王は、ただ悲しそうに、それでもシッカリとした瞳の色でもって、アポロを見て、…瞼を閉じた…。

   そして、二度と動く事はなかった…。

「くっ…」王の死に、アポロは手に持つ剣の柄を握り締める。

  カアッ!

 と、剣の柄に埋められた紫の宝玉が光り輝く。
 一瞬、アポロはそれに目を奪われ、そして、…理解した。
  この剣は、…ガイストの剣…、先の英雄の剣であり、

   …剣は次の英雄として、自分を選んだという事を…

「うおおおおお!!」
 アポロは吼えた。ただ、吼えた。
 そして、元から持っていた剣を地面に突き立て、王より手渡された剣を掲げる。
  剣の宝玉は、主を見つけたとばかりに周囲に、紫の光を浴びせる。

 光に呼応して、…[AGOTOW]がアポロの元に歩み寄りだした。

  瞳に涙を浮かべ、アポロは吼え続け、王の骸を置き去りに…また、
 [AGOTOW]の群れへと飛び込んでいったのだった…。


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