=第二章=
[Arrested Princess]
第1話・黒の26標

 

 長い、…長いとも感じるその初戦を終えた城下町。
 引き上げた兵隊とその治療に遁走する衛生兵と、街の男手が行きかうその場。
 その中央広場の片隅で、アポロは、クリスの前に対峙していた…。
「…、王女」
 アポロは、その王女の前で帯刀していた剣を鞘ごと外し、そして、跪きかしずくと、剣を彼女の方へと差し上げた。
「父王の剣、返上いたします」
 そう、アポロは語り、その剣が、ガイストの剣、である事を告げる。
「…、…。…」
 王女は、それに対し、無言を返し、一歩だけ引いた。
「アポロ。それはあなたの剣です」
 マグデス王の死骸を確認したクリス王女は、泣きもせず、ただただ、「弔いの準備を」と、告げ、そして、アポロを探した。そして、見つけ、今に至る。そのクリスに対し、アポロが剣の返上を申し出たのに、首を横に振って見せたのだ。
「元々、その剣は、ガイストより平和の証として、献上されたもの。そして、再びの有事にと、託されたもの。…」
 一度、だけ、クリスは息を吸い、そして、吐いて、…言葉を続ける。
「何より、あなたがその剣を振るい、武勇成し遂げる様を多くの兵が見ていたのです。その剣で。お父様が扱っても、普通の剣でしかなかったのに、…あなたが振るうならば、脅威は…、拭われる…」
 未だ晴れぬ空模様の中、クリスは、こう締めくくった。
「あなたは、英雄の息子として、これからも、その力、私共のためにお使い願います」

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