=第二章= |
「オルト」 「オルト、ですか?」一言を呟くクリスに、スティアが言葉を反芻しつつ言葉をつづけた。 「オルトでしたら、北の大地の岩石山の祠に住む、オルト老子の事ですか?」 「ええ、そのようです。お父様自身も、AGOTOWの存在を詳しくはなかったようです。ですから、北の賢者であるオルト老子に教えを乞うよう、と、ガイスト一行に任を与えた模様。…。」 そして、続きを目で追いかけつつ、小さな吐息を漏らす。 「ただ、詳しい話まではお父様にお伝えされなかった模様ですね。老子にあったその足でAGOTOWの殲滅任務に就いたようですし、…解決後、ガイスト様は帰城なさらず、行方も分からなくなっておりました」 そして、クリスは父王の冊子を閉じ、一度沈黙の祈りを捧げ、それから、スティアに向き直る。 「ここは、お父様の記した軌跡を辿るのが唯一の解決策でしょう」 ただ、このクリスの提案にスティアは「北の岩石山は、…禁区とされている為、魔法での移動は見込めませんが…」と、苦言を漏らす。もちろん、クリスも知っているのだろう。 一つだけ、首を横に振ってみせて、クリスはスティアの苦言にもう一言を付け加えた。 「早馬などで赴くなどはAGOTOWの待ち伏せの危険もあります。馬車で歩数をおさめ、周りに注意を払いながら向かっても問題のない距離でしょう?」 その言葉に、スティアは「…人選は、やはり」と、次の議題を振ってみせると、クリスは小さく重々しく頷き、そして口を開いた。 「…、ええ、隠密かつ少数での行動がよろしいでしょうね。戦局においても、切り札ともいえるアポロ様が城にいなくなるのです。事については、後にゆっくりと私の方から状を配布するとしても、です。」 そこまでを一気にしゃべり、クリスは「…人選は、機密性を維持できる人、そして、…」と、視線をスティアに送る。 「私…ですね」 そのスティアの言葉に、彼女は弱弱しく頷いた。 「もしもの事態で、帰城が必要となれば…。あなた頼りで、申し訳ないわ…。スティア」 「何をおっしゃいます、王女。私は宮廷魔術師の一族。王国を守る事、王女を守る事、それは誉です。…何より、この体を気遣い、労わりをしてくださる王女の姿勢は、勿体ないほどですよ」 ローブの奥に潜む瞳はうかがえずとも、スティアの真摯たる態度に、「ありがとう」と返すだけだった…。 |