=第二章=
[Arrested Princess]
第44話・黒の40標

 

「オルト」
「オルト、ですか?」一言を呟くクリスに、スティアが言葉を反芻しつつ言葉をつづけた。
「オルトでしたら、北の大地の岩石山の祠に住む、オルト老子の事ですか?」
「ええ、そのようです。お父様自身も、AGOTOWの存在を詳しくはなかったようです。ですから、北の賢者であるオルト老子に教えを乞うよう、と、ガイスト一行に任を与えた模様。…。」
 そして、続きを目で追いかけつつ、小さな吐息を漏らす。
「ただ、詳しい話まではお父様にお伝えされなかった模様ですね。老子にあったその足でAGOTOWの殲滅任務に就いたようですし、…解決後、ガイスト様は帰城なさらず、行方も分からなくなっておりました」
 そして、クリスは父王の冊子を閉じ、一度沈黙の祈りを捧げ、それから、スティアに向き直る。
「ここは、お父様の記した軌跡を辿るのが唯一の解決策でしょう」
 ただ、このクリスの提案にスティアは「北の岩石山は、…禁区とされている為、魔法での移動は見込めませんが…」と、苦言を漏らす。もちろん、クリスも知っているのだろう。
 一つだけ、首を横に振ってみせて、クリスはスティアの苦言にもう一言を付け加えた。
「早馬などで赴くなどはAGOTOWの待ち伏せの危険もあります。馬車で歩数をおさめ、周りに注意を払いながら向かっても問題のない距離でしょう?」
 その言葉に、スティアは「…人選は、やはり」と、次の議題を振ってみせると、クリスは小さく重々しく頷き、そして口を開いた。
「…、ええ、隠密かつ少数での行動がよろしいでしょうね。戦局においても、切り札ともいえるアポロ様が城にいなくなるのです。事については、後にゆっくりと私の方から状を配布するとしても、です。」
 そこまでを一気にしゃべり、クリスは「…人選は、機密性を維持できる人、そして、…」と、視線をスティアに送る。
「私…ですね」
 そのスティアの言葉に、彼女は弱弱しく頷いた。
「もしもの事態で、帰城が必要となれば…。あなた頼りで、申し訳ないわ…。スティア」
「何をおっしゃいます、王女。私は宮廷魔術師の一族。王国を守る事、王女を守る事、それは誉です。…何より、この体を気遣い、労わりをしてくださる王女の姿勢は、勿体ないほどですよ」 ローブの奥に潜む瞳はうかがえずとも、スティアの真摯たる態度に、「ありがとう」と返すだけだった…。

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