=第1章・第1部=
真吾

 

「…」
 声を上げ、隣にいるであろう人物に声をかけた…つもりである。
 しかし、真空であるかのように声は響かず、口だけが動いただけであった。
 宇宙空間、かというと、そうではないので、呼吸ができないという事もない。
 ただ、空気という概念がない。そういう事である。
 音を伝搬させるべき空気がないのだから、必然、声が伝わらないのも道理である。

  ただ、この行為は自分の気力を少しでも保たせるべく、隣にいるその人に激励でもほしかった。為だ。
  だから、…こそ、声を発し、語りかけたかった。

 しかし、それは叶わず、口を結ぶ他無いのを学んだ事で終わってしまい、だから、代替えとして、目の前に広がる暗黒色へ悪態を浮かべた瞳でもって睨む事で機嫌を直そうともしたが、この暗黒色は、自分達を保護するものであり、自分と隣にいる人物で張る防壁魔法というものだ。
 自分を含め、五人。その五人を、この世界に永遠と存在する激流、より守る暗黒色の防壁である。
 激流というから、大海か大河かを考えるだろうが、そんなものではない。
 ましてや、上空の暴風とでも思うだろうが、もちろん、違う。

  ここは、[時空間]。

 そう、時を刻み続ける全ての世界を包括し、かつ、通常の生体は存在するはずもない世界である。
 この世界があるからこそ、自分達の世界は存在し、そして、時が流れる。
 もしも、この世界から、切り離された世界があれば、それは時を失う事であり、つまる所、…存在を失うという事だ。初めからそんな世界など、存在しなかった、という事になる。

  …という事を、隣にいる人物。由に、自分の父親が、この世界に入る前に教えてくれた。
  正直、自分はそれを理解しきれていない。そして、それが表情に出ていたのだろう。そう説明してくれた父親もまた、祖父の受け売りだから理解をできていない、と言った時には、お互いがお互いを苦笑するしかなかったのは言うまでもない事だ。

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