=第2章・第3部=
訪れ

 

 少女の言葉に、久美と呼ばれたウエイトレスは、ゆっくりと息を吸い、…
 まつ毛長く、三白眼とも称される目をさらに吊り上げ、真っ赤な瞳の瞳孔を広げ、
 さらには青いバンダナで申し訳程度に前髪だけをあげている腰まで伸びたザンバラの緋色髪を、ハリネズミの威嚇かとも思わせたくなる程に、ぶわっと、巻き上げるように膨らませ、
 歯茎をむき出し、「いい加減にしなさいよ!奈々美!!」と、店を揺るがすような声をセーラー服の少女、奈々美の耳に浴びせかける。
 耳をまるでメガホンのようにされた奈々美は、赤い珠付きの髪留めでツインテールにまとめた飴色髪の頭を少しクルンクルンさせ、ちょっとだけ泳いだオレンジ色の瞳の焦点が目の前に合う頃、再び、久美が口を開いた。
「はい、お終い!奈々美、お終いって、言ったら、お終い!!お〜、ひ〜、ら〜、!っ、き〜ぃぃいいいーーーー!!」
 久美の言葉に、軽く首を傾げてみせる奈々美は、皿を差し出した手は下げず、今度は反対側の手で自分の席の横にある外窓を指さしてみせる。
 そこには張り紙があり、「水曜日は¥1000でケーキ食べ放題」と、ポップな広告が掲載され、奈々美はそれを見る事無く、今度は無言で、再度、ふんっ…と、カラの小皿を上に軽く振ってみせる。

次に進む/読むのを終了する