=第4章・第60部=
始まり

 

 真吾は苛烈なる火勢の中、色々と錯誤を繰り返し、繰り返し、目の前の男を救おうとした。
 彼は、ただ操られている。それが分かった。だから、救おうとした。…しかし、
 遅かった。遅すぎた…。
 火勢は、ものの1〜2分で弱まっていく。
 そして、近くに見て、体力自慢を誇っていた筋肉質の男性像だったその人間は、同じく、肌の張りと色を失い、筋肉は痩せ乾せ、頬も数十年に及ぶ闘病を行った程の消耗を見せていく。
 サードの人間は、魔法の能力を使いこなすには、あまりに短命だった…。
 最後の…弱弱しい火力を持つ腕が真吾を襲う。
 その腕も風で払い、そして、火力を失った腕をガシリと掴む。
 腕の太さは、筋肉はなく、もう骨ばかりであり、その強度もないのだろう。受け止めただけで、パキリ、という乾いた音が男の内側から、響いた。
 そして、…目も生気を吸い取られ、歯を支える歯肉も無くなったようで口の中には抜け落ちた白い歯がごろごろと転がり、黄土がかった穴だらけの歯肉の口が開く。
「しぃ、ひぃ、はぁ、ふぅ、ひゃ…ひぃ」
 喉の水分さえないのだろう男の言葉はカスれ、かろうじて聞き取れるものだった。
 その言葉を最後に、男の体がガサリと崩れる。
 急速に風化する石像のように、灰色に姿を変え、…燃えカスだけが山を作った。
 …真吾は、受け止めた手そのままに、足元の灰山を見つめ、…そして、「すまない」と、コブシ握りしめ、空を仰いだ。

次に進む/読むのを終了する