=第2章・第5部=
訪れ

 

  実の所、こう客足がない場合は、かなりの赤字な奈々美の食いっぷりなのだが、店主である彼女は、これも良し、としているのである。
  この町は、娯楽らしい娯楽の施設も少ない、またそう際立った催しものもしないしで、存外、暇な所である。
  という訳で、彼女は、奈々美と久美を使った大捕り物を企画したというものだ。
  実際、奈々美の食べっぷりと一食一食を美味しそうに食べる様と久美がなんとか奈々美の食いっぷりを阻止しようとあの手この手で躍起になる様は水曜の風物詩ともなっている。
  この前など、阻止すべくジャーマンスープレックスをもろに食らった奈々美が、食らっている最中に握ってた皿からケーキがポ〜ンとはねたかと思うと、綺麗に頭部から落ちた奈々美の開いた口にスポン→もぐもぐもぐもぐもぐもぐゴクン→ご馳走様でした〜、は拍手喝采ものだった。
  普段であれば、見物と称して、来店し、見物料として、ケーキも食べずに1000円を出したりなどもあるのだが、今日のように、雨か雪が降りそうな雲模様に加え、祝日による学校のない日などには、来客は奈々美一人である。
  正直、面白さよりも出費がすごい有様になるわけだが、そこはそれ。ちゃんと裏があり、食べたケーキの量である程度の請求を、奈々美の母親にしていたりもするのだ。
  やはり、渋い顔を見せる母親なれど、一芸で町民の団欒になるならと、請求を飲んでいるのだが、もちろん、回りまわって、奈々美のお小遣い削減に繋がっている寸法である。

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