=第2章・第9部=
訪れ

 

 大きな落雷の後の樹のあった丘の上ー。そこに五人ほどの人影があった。
 落雷の衝撃か、それ以外の何かか、一人だけ倒れ伏し、4人がそれを介抱する仕草が見える。幾刻か後、倒れていた一人がようやく目を覚ましたのは、落雷より十数分後、辺りは余韻とばかりに霧雨が降り始めた頃だった。
「やはり、来たのね」
 周囲に視線を配る5人に、声をかける女性がいた。
 しかし、声よりも先に先程まで倒れ介抱されていた一人がいまだよろめき膝をつきながらも腰だめに拳を構え、その女性に向ける。
「大丈夫だ」その行動に、左腕を水平にかざし、押しとめる者が5人の中にいた。
「あの人は、大丈夫だ…」
 そして、水平に振りかざした左腕を胸元に寄せ、深々と頭を下げ、非礼を詫びる。
 女性はそれに対しても、平静な顔を保っていたが、「その子はあなたの息子なのね」と、一人語ちる。
「…ふふ。よく似ているわね。あなたの父親、影拡に。若い頃の影拡のように、儚くも冷たく、そして強い眼差し」
 そこまで口ずさむと、平静を保っていたはずの表情に、ほのかにだけ陰りを浮かべる女性。そして、5人にと言葉を告げた。
「さあ、行きましょう。あなたがたの住まうべき家へ」

次に進む/読むのを終了する