=第3章・第1部=
原線路界町

 

「うっわぁ…、大きい雷だったね」「…、そうね」
 [Rain-Bow]にいる二人、奈々美は久美の怒声と落雷音でちょっと歪んだツインテールを手で突きながら、久美は起こった出来事の驚きから解放され肩を撫でおろし、各々の感想を小さく呟いた。
  priririri…priririri…
 二人のつぶやきの後、店内の10円で通話できるピンク色のダイヤル電話が鳴り響き、「はいはい、はいはい」と、店主が受話器を取る。
 その光景を見ていた二人に、会話を終えた店主は受話器を下ろし「久美」と、声をかける。
「今日はもう上がってもいいわ。家の方から連絡で、なんでも遠いご友人が久方ぶりにいらっしゃったそうなの。だから、早く帰ってらっしゃい。だそうよ」
「…、ふ〜ん。まあ、は〜い」
 店主の電話の内容に、少しだけ生返事を返し、店の奥に引き上げようとするが、「それと、奈々美もよ」という言葉に足を止めた。
「私も?」「奈々美も?」と、二人同時に発音同じく、店主に言葉返す様にクスクス笑いながら、「そうよ」と答え、その理由を続ける。
「奈々美のお母様も、いらっしゃるのよ。だから、一緒に、久美の家に行きなさい。という事よ」
「ママの知り合いでもあるんだ」
 店主の言葉に、奈々美はそのオレンジ色の瞳をさらに大きくさせる。その後、店主は少〜しだけ思案し、にっこり微笑んだ。
「そうね、せっかくだから残っているケーキ、包んでいく?」
 店主の提案に、奈々美が目をときめきで輝かせようとした瞬間、歯の根がっちり石臼のように合わさるほどの久美の鉄拳をズゴンと頭頂部に食らい、火花と星が舞う。
「おば様」拳を引き、腰前で両手をそろえ、少し切れ長な目と薄く赤紅をさした唇にたっぷりの営業スマイルを蔓延にたたえつつ、タンコブ出来るほどのダメージではないが頭部を押さえ、ヤジロベーよろしく「ぐおおおお!」と∞の波形でその上半身をもんどり続ける奈々美を無視し、久美は優しい声色で言葉を続ける。
「素晴らしい申し出ではありますが、そんなご迷惑はかけたくないので、私、久美は、そのお気持ちだけ、いただきますわ」
「あら、それは残念ね」
 そんな二人のやりとりに、ただただ店主はクスクスと笑いを返すだけだった。 

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