=第3章・第9部=
原線路界町

 

 奈々美が急いで入ったのだろう…半開きのガラスの引き戸の有様に、久美は少し深めのため息を吐きつつ、ガラス戸に手をかけ、ガラガラと開けた。
「違うよ、私は奈々美。九白奈々美」
 帰りの挨拶を言おうとした久美を遮るように、奈々美の声が玄関先で響く。
 その声で、久美は言葉を飲み、ちょっとだけ周囲に泳いでいた視線を眼前にある二人の人影に向ける。
 一人は玄関口の土間に立ち、赤いセーラー服に赤い珠の髪飾りでツインテールをまとめた、…彼女がとても見慣れた少女、奈々美であり、
 もう一人は、玄関口を上がった所に立っているものの、たぶん、ナウも奈々美も知らないだろう。
 男であるが背格好の方はかなり低く、身長が140程の奈々美と似たものであり、服装はというと、麻にも似た目の粗いTシャツ状の上着に動物の皮をなめしたような光沢を放つ長ズボン。
 非常に古風チックで個性的な衣装もそうだが、もっと特徴的なのはその顔であろう。
 もちろん、久美の髪色は緋色であり、ナウも藍色だから、奇抜…という程ではないが、彼の短く切りそろえられ、ショートな髪の色は、白色である。
 銀とかそういったのではなく、降り注ぐ光をすべて反射していると言っても過言でない程の白色だ。言うならば、まさに年老いた人の毛髪色なのだ。
 さらに…、さらにだ。彼の美男子といえる程、優しさを浮かべる紅色の澄んだ瞳を持つ目と伸びた鼻筋、品格も伺える柔らかい物腰の口元…をその全てを台無しにする…

  真っ白い包帯がその顔面左全てを覆いつくし、若干、隠し切れていない部分は筋肉繊維が見えていた。よくよくに見れば、唇の一部も削れており、唇を閉じているにも関わらず、歯茎と八重歯がうっすらと見えていた。
  そう例えるならば、人体模型のよう、と言えば、良いだろう。


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