=第3章・第10部=
原線路界町

 

 ただ、そのむごたらしい様も感じる傷跡には痛みがないようで、彼は奈々美の否定でその面を上げて、玄関戸の前に立つ二人を見つけると、何事もないように、…残っている右半面に円満な笑みを浮かべつつ、「失礼しました。そちらが、水沢久美さんですね」と、会釈をしてみせる。
「私は夏辺真吾、と言います。お邪魔させていただいております」
 少々丁寧な感じの挨拶に、少し戸惑いを持つ久美とナウは視線だけで見合わせて、どちらからともなく「まあ、はい…」と、言葉零した。瞬間、
「おおい、二人して玄関口に何立ってんのよ。寒いんだから、チャッチャと入りなさい」
 少し呆っとしている二人の首根っこに腕を回し、自分の顔をサンドイッチするように引き寄せながら、奈左水が四人の中に入ってくる。と、目ざとく玄関上に立つ男、真吾を見つけると、さらに二人をグリグリと弄りながら、こう言ったのだった。
「何よ、こんなとこにお客様立たせてるの?。チャッチャと入りなさい」

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