=第3章・第36部=
原線路界町

 

 だが、それがどうだ。…今、目の前の同世代と言えど、身長のほどは低く、まるで少年のようにも思える相手だ。
 手加減という訳ではないが、最初の一撃は、若干手を抜いていた。だが、その二撃目からは違う。
 カシもしならせる程の蹴撃と大の大人が揺らぐ拳撃は、全て、彼に命中している。
 命中している。のに、手応えもあるのに、…。手応えが無い。
 まるで、極上の羽毛布団を相手にしているかのように、繰り出した拳も蹴りも柔らかく包み込み、反動で残るはずの衝撃さえも吸収していく。
 そう、まるで危害を加えてこないものがあり、自分の繰り出す技全てを吟味、受け流していく。
 溢れ出るのは、負の感情。拳撃・蹴撃は怒気を帯び、優美を失い力がこもる。握りしめた力任せの突きも空しく、受け止められ、
 脳髄をぶちまかす勢いでのかかと落としも目標はすり抜け、構えられた両の手の平にとらわれ、優しい衝撃をもらってから、解放される。
 そして、…負の感情の全て、出し切った彼女に、残ったのは、…。

  「パシンッ」と、最後の、鳩尾を狙った右拳が、彼の右の手の平に収まり、…そして、彼女は[悲しみ]の涙と歯噛み…。彼の顔を見た。

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