=第一章・第二部=

=黎明の証より来る日=

 

 底冷えするような食堂に隼人は自動販売機の前で立ち尽くしていた。
 別に何かが飲みたくて来たわけではないが…ただ全て「売り切れ」になっていたのは少し癪だった。
 手近な席に腰を下ろす。時間のみがゆっくりと過ぎていく。
 たまに聞こえる野球部の硬球を打つ音だけが…実感だった。
「先輩…」
 そんな言葉が彼の耳に入り、すっとおもてを上げる。
「やぁ、雀さん」
 常に手入れの行き届いた黒髪の女生徒が彼の目の前に立っていた。
「お久しぶりです。なんだか、部活の事で忙しくなってしまって…ご挨拶が遅れてしまいました」
「挨拶?」
「部長の後任をさせていただいたご挨拶です」
「…確かにそうだけど」隼人は席を立つ。
「僕はもう部活をやめてしまったわけだから…挨拶の必要もないよ」
「先輩!」出ていこうとする隼人を雀は呼び止める。
「私、まだ部長になったばかりで…その…部活に入ったのも…まだ日も浅いので…できれば、」
「僕だって、部長らしい事はしてないよ…ただ、お飾りとしての部長だったんだ…。予算会議にだって…君達に押し付けて…いつもいつも…」隼人は雀を見て、やさしく笑った。
「だから、不安がらなくていいよ…今まで通りにすれば…今まで君達がやっていた事のほうが部長らしかったんだから…」
 自嘲の混じった答えを漏らし、食堂を後にしようとした隼人。
「先輩!!」と再び、そして声高に雀は彼を呼び止めた。
「………あの…お昼休みに…その…」
 呼び止めに、ただ簡単に後ろを振り返る彼を見て、先ほどの勢いはどこへやら…彼女は口ごもり…目を伏せ、息を整えるような間を取ってから…ゆっくりと隼人に視線を合わせた。
「お昼休みに学校の裏庭に来ていただけますか」
「………」
 しばらく、隼人は雀を見つめていた。観察しているというわけではないが、汗ばむように赤く染まる彼女の顔を…見つめていた。
「分かったよ…お昼休みに…学校の裏庭だね…」
「!!…はい、…」
彼は一度だけそう言い、食堂を後にすると、「絶対来てください」という見えなくなった彼女の声を背中に浴びた。

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