=第二章・第一部=

=朝露が消える頃より来る日=

 

  ザーーーーン パシャパシャ…
 歯切れの良い水音を立てながら、泳いでいる鶫の姿を…海パン姿の隼人はプールの淵で眺めていた。
 イスカの存在が身近に感じられるようになってから、一週間が過ぎ去り、夏休みの初日を迎えていたこの日…
 数日前の鶫の誘いで今、彼女と二人きりで学校のプールに来ている。
 そして、呼び出したその張本人は隼人を置き去り、楽しんでいた…。
 隼人はただボォ〜ッと、彼女の姿を眺め、この学校の屋内プールを見渡した。
 授業でもその大きさに圧巻されてきたが、彼女との二人きりではさらに強く、圧迫感を感じてしまっていた。
「鶫さん」
 隼人はその圧迫感から解放されたくなり、彼女の名を呼ぶ。
 けれど、声は彼女には届かなかったのか…隼人の存在を無視するように、泳ぎ続けていた。
「鶫さん!!」
 隼人は今一度、先程よりも大きな声で彼女の名を呼んだ。
 パシャンッ…と水音が止まり、広い空間に無音の圧迫感が漂った…。
 鶫はしばらく隼人の姿を見つめ、再びパシャンパシャンと水音を上げて、彼の元に泳ぎより始める。
「何しとんのや?はーちゃん…おまんも泳ぎぃ♪」
 一瞬、隼人はその言葉に絶句し、頭に血が上りかける。
「鶫さん、僕に用があっ…!!」
 隼人が何かを言おうとプールの淵から立ち上がりかけた瞬間、それよりも早く鶫は彼の腕を掴み、引っ張り込んだ。
  バッシャーーーン……
 高らかな水音が鳴り響く。その割には…隼人の顔面だけ冷たい水の感触はなく、むしろ柔らかく温かいもので鼻先を打った。
 息苦しさと興味から、目を開けると白い水着に包まれた鶫の胸が眼前に押し付けられていた…。
「おわがはぁっ!!」
 あまりの衝撃的シーンに慌てて離れようとする隼人の頭部を鶫は両腕で縛り、押し付ける。
「なんや、はーちゃん、エロ河童やなぁ〜」ニタニタ笑い、面白がる鶫。
「そげに良げなら、もっとしたりぃ〜♪」
「わああああぁああああぁぁぁぁぁぁ!!」
 数秒後、さすがに息苦しさでたまらなくなった隼人は鶫の腰を掴み、力任せに顔を引きずり上げる。
「いい加減にしてください!!」
 前髪から水をポタポタ落としながら、憤怒の表情を見せる隼人に少し驚き顔だった鶫は小さく微笑み、腕を隼人の首周りにそっとまわす。
「はーちゃんにしては、積極的やなぁ…ガッチリ腰掴んじょるなんて…」
 そう言いながら、いつもの悪ふざけに見せるようなニタニタした笑いではない…胸の高鳴る魅惑的な笑顔をのぞかせ、水が滴り輝く唇を開き、隼人の耳元で優しく囁きかけた。
「なんなら、キスでもしちゃろうか…」
「!!」
 一瞬、彼女の言葉に硬直する隼人。そして、ゆっくりと彼の唇に寄る、鶫の唇。

  バシャアァ!!

 隼人は突き放すように鶫から離れる。プールの淵を背もたれにして息荒く、彼女を見る。
 鶫は少し呆然とした顔を見せているかのように思えたが…「ぶっ…」と吹き出し、「ギャハハハハハハ!!」と笑いだした。
「やっぱ、はーちゃん、かまうとおもろいわぁ〜♪」
「鶫さん!!」
 さすがの隼人も脳天に血が昇り、彼女に掴みかかろうとする。…が、水に邪魔され、思うように進めず、スイスイと避ける鶫に涙さえ浮かぶ思いだった。

 


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