=第三章・第八部=

昼の白い雲より来る日

 

 笑い声があった。幼い時の彼の周りは、たくさんの笑顔があった。
 その中には、保健室長の九白智恵美、その娘の奈々美…
 もっともっと、たくさんのお兄さんやお姉さんと一緒に…

 そして、…柏原絵里奈かしわばらえりな…がいた。

 昔、まだ住宅街に住んでいた隼人の近所に彼女の家があり…
 親縁であったのと留守がちな両親のために、彼はよくご飯を食べに行っていた。

 絵里奈は、とても優しく、とても綺麗で、幼心の隼人に、
 ただただ…畏敬の念のような、本当の姉のような…そんな思いを抱かせた。
 そして、彼が幼いながらも知った事は、絵里奈が養女だったということ…離れ離れになった兄が一人いること…

 そんな彼女の心情に…隼人もまた、両親がいつもいないことが共感となったのか…
 彼女を慕い、ついて歩いていた。

 いつも一人で過ごしてきた隼人に、彼女という世界が広がった…彼女の友達に会い、からかわれながらも、その輪の中に入り、彼らの笑顔と一緒に過ごしてきた。

   …

 ただ、終りは唐突に訪れた…。

   …

 彼女を最後に見たのは、どこだっただろうか。…たぶん、病院の一室だった。

 自分の知っている兄や姉の笑顔はなく、泣きじゃくり、悔しがり…打ちひしがれていた。
 絵里奈は…眠っていた。
 いつか目覚めて、笑いかけてくれると思う隼人の楽観視は…その数日後には消えていた。

 白と黒の垂れ幕と…黒い額縁に収まった、彼女の笑顔…

 どうして、こんな事になったんだろう…そんな事になったんだろう…
 …幼い隼人には、分からなかった…

 ただ、…

 絵里奈はもういない…ただ、それだけは分かっていた。

 


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