=第三章・第十部=

昼の白い雲より来る日

 

 夕食。この民宿の大広間で、鶫と鶫の父親、そして、親戚一同がドンチャン騒ぎをしていた。そんな光景を尻目に、未だ、胸中にイスカの言葉が残っているのだろう、なんとなく食欲の薄い隼人は、目の前にある焼き魚の身を、口に運ぶでもなく、箸でほぐし続けていた。

 あの後、戸惑いを隠せず、身動きできない彼は…湯あたりする直前まで、浸かっていた。そして、そうなった元凶のイスカ自身は、…その後、彼女を探し回っていた鶫が二人の前に現れて、二言三言の文句を言いながら、連れて行ってくれた。おかげで、のぼせて倒れる事にはならなかったものの…やはり、少なからず気まずさも残っている。

 ドンチャン騒ぎの中、やはり、イスカの視線が気になるものの、それでも、なんとか箸を進めようとする隼人。そんな彼にドンッっと、背中に異様な重みが圧しかかった。
「なんや、は〜ちゃん、元気あらへんな〜」
 彼の右横から鶫のべろんべろんの顔が現れる。…
「鶫さん…」
 隼人はそんな状況の彼女を見ても、お酒を飲んでいる事について、言及するつもりはなかった。彼女も一応、分かってて飲んでる…わきまえている頭はある、と思ったからだ。
「は〜ちゃんも飲もやで〜。気分悪ぃのがぁ〜、ぱぁ〜っとのうなるで〜ぇ〜へへへへぇ」
 絡み酒の笑い上戸…な鶫は、さらにぐい〜ッと圧しかかり、隼人を机にと圧迫する。
「鶫さん、重い…」
「だ〜れが重いやで〜、そんな重たないわ〜〜〜〜」
「ぐぇええええ…」
 言及するつもりはなかったものの、やはり、彼女の行動には隼人も愚痴にも近い言葉が洩れてしまった。もちろん、その言葉に、プッツンした状態の鶫が黙っているはずもない。彼の首元に片腕を絡めると、その首を締め上げはじめる。
「もう、この娘は、なんしよるかいな〜…」
 その状況を見かねたのだろう、鶫の母親が二人に近づくと、隼人の首にかかる腕を取り、暴れる鶫を剥がしとる。
「なんや〜、かかは〜、は〜やんのふぃはたするんか〜!」
 どうも、かなりの量を飲んでたのかもしれない…。どんどんとろれつの回らなくなっていく鶫の姿に、隼人は安堵ともとれる大きな溜息を吐く。
とと、鶫寝かしてくるで〜。後、頼んやで〜」
 母親がそう言って、腕の中で暴れる鶫を抱っこしたまま、部屋を後にするものの、父親は父親で、…こちらもグデングデンに酔い…、一升瓶をあおり飲んで、聞く耳もないようだったし、さらに、周りも周りで、呼ばれた鶫の親戚一同も同じような状態であった。
 そんな光景を改めて見直した隼人は、そのあまりの毒気に当てられ、箸を置き、…部屋を後にした。
 向かい側に座り、自分を見るイスカの視線を感じながら…

 


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