=第四章・第一部=

陽炎う遮光より来る日

 

 少し厚めの布団で眠る隼人の耳に、チュンチュンと、スズメの鳴き声が飛び込んでくる。
 それが目覚まし時計のように…彼の目覚めを促した。
 少々、昨日の酒気に当てられたのだろうか、正直、軽い胸焼けも感じてはいる。
 隼人は軽く伸びをした後、布団をたたみ、寝巻き代わりに使っていたTシャツにトランクスの格好で再度、今度は大きく伸びをしてみせる。
「は〜ちゃん、起きてんか〜?」
 閉めていたカーテンを開けつつ、首元を軽く動かしていると、廊下に出るふすま越しに鶫の少々間延びした声が聞こえてきた。
「起きてますよ」
「ちゃちゃ、そいはご飯やて。降りよやなぁ〜〜はふあぁぁあ」
「眠そうですね。鶫さん」
 とりあえず、寝巻き用のTシャツを脱ぎ、新しいTシャツとGパンを穿きながら、鶫の欠伸に問いかける。
「なんや、頭になんぞ残っとぅ感じやからな〜」
「それ、飲みすぎでしょ」ふすまを開けながら、隼人は苦笑しつつ、彼女を諭した。
「かなり泥酔の様子でしたからね…」
 昨日の彼女の風体を思い出し、それに対して軽い悪態をついてみせながら、正面にいない鶫の姿を探すように彼は視線を左右に走らせる。
「そげかな。あんま記憶ないわ」
 左手のふすまに背をもたれさせていた鶫がいつもながらの笑みを浮かべて、返事をする。その彼女の後ろにイスカの姿もあった。
「鶫さん、イスカさん、おはよう」
「おはようやて」
「…」
 二人の姿を確認した隼人は挨拶をすると、ニッと笑う鶫と無返事で無表情のイスカという、各々らしい挨拶を返してきた。それから、鶫がパンッと手を叩き、「ちゃちゃ、さっさか、ご飯いこやな」と、ニンマリしながら、隼人とイスカの手を取り、階段へと足早に歩き出す。
 ふと、隼人はイスカを見た。彼女は、引っ張られながらも…隼人の方を見つめている。そんな彼女の行動にさすがに照れるのか、…彼は軽く苦笑いを返し、視線を前に向け、足早に動きながらも、一息吐いたのだった。

「そやな〜」不意に朝食の最中、鶫がご飯をほおばりながら、呟いた。
「今日は、町ん中、プラプラせぇへん?」
 鶫の申し出に隼人は、カリカリとたくあんを噛みながら、「構いませんけど」と、答え、しれっとした口調で、言葉を続ける。
「どうせ、嫌だと言っても、文句言うだけでしょ」
「…」その隼人の言葉に少なからず、頬を膨らませる鶫。
「なんや、こっち来てからのは〜ちゃん、めっちゃ意地悪やん」
「そんなは、おまんがあかんのやろ〜が、おまんが〜」そんな彼女の文句にすかさず、鶫の母親が割ってはいる。
「もうすこ〜はな、隼人はんの気持ちを考えぇやなぁ」
 母親の一喝に「エエやんかよ、別に」と、小さく口答え、少しうつむく彼女。
「まあ、隼人さん、こげな不出来な娘やけども、よろしにな〜」
 そんな態度に出る鶫を横目で見つつ、母親は最後にそう言って、空になっていた鶫のお椀を奪い、大量のご飯を盛り付ける。
 隼人も隼人で、その親子のやりとりが面白いのだろう、苦笑をもらしていた。
「のう〜、イスカ〜。皆がいじめんねやで〜」
「………」二人の態度に茶碗を受け取った鶫はさらに情けない顔をして、隣に座るイスカに、少しだけ声を張り上げながら、管を巻くように喋りかけた。…ものの、相変わらずの無表情さ加減に「皆、いじわるやわ〜ぁ…」と、空を仰ぐように叫んでみせる。
「ま、この辺にしてあげますよ」
 隼人はニコニコしながら、もう一枚、たくあんを口の中に放り込み、コリコリと噛み締める。
 それに対して、ほんの少々、鶫もしかめっ面を見せながら、大盛りのご飯にも関わらず、箸でつつくようにちびちびと口に運んでいた。

「自業自得…ね」

 ふと、微かなものだったが、鶫の耳にそんな言葉が耳に入り、ジトっと横目でイスカを見る。
 相変わらず、無表情なイスカは、米粒といっていいようなご飯を口に運び、何度も噛んでいた。

 


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