=第四章・第二部=

陽炎う遮光より来る日

 

  ガタタン…ガタタン……

 もう長らく無人駅になっているのだろう、外見にもそう見える駅に降り立った彼女…八頭 雀…は、今まで写真部の部員と共に、自分を乗せていた汽車が走り去っていくのを、手を軽く振りながら見送った。
「………」
 特に、この町に用があって、降りたわけではない。ただ、汽車内で騒ぐ部員達の騒動に、正直、気分が優れなくなった…それが、本当の理由である。
 一本遅らせて、帰宅しようと思ったものの、…その駅の時刻表を見て、彼女は溜め息を洩らした。
「次の便…二時間も後…かぁ」
 彼女は、ちょっと失敗したなと思いつつ、腰に下げたポシェットを開けてみると、一応、千円札一枚と数百円程は、残ってはいた。
 切符は…無人駅なので、ちょっと誤魔化すように乗りこめば、…なんとかなると思いつつ、彼女は軽く伸びをしながら、駅を出た。

「あれ?」
「え…」彼女がその町に出て、数分程、散策していると、聞き覚えのある声が耳に入り、慌てて振り返った。
「…先、輩…!?」
 こんな所で会えるとは思わなかった存在であったため、思わず疑うように…雀は、自分の後ろに立っていた隼人を見つめた。
「なんや、は〜ちゃん。どげしたんと?」
「あっ、いえ…写真部の時の…」
 そんな隼人の横から、ひょいっと鶫が顔を出し、雀の姿を見る。その後ろには、イスカの姿もあった。
「雀さんは、写真旅行だったよね。この町に、みんなもいるの?」
「えっ、あっ…いえ、…えっと、ちょっと帰りの汽車で、気分が悪くなったので…私だけ」
「汽車待ちか〜、今の時間じゃ、なかなかあらへんやろ」
 隼人の質問に雀が答えると、割り込むように、眉をひそめた鶫が大げさに相槌を打ち、雀の肩を持つ。
「えっと…あの」
 馴れ馴れしく近寄る鶫の存在に、鶫と隼人を交互に見つつ、隼人に助けを求める雀。
 にもかかわらず、鶫は彼女の肩を引き、連れ添うように歩き出す。
「ちゃちゃ、一緒に時間つぶししよやないか〜」
「ぇ、ええ、ええ〜っと、せ、先輩〜」
 その雀の状況に、隼人は少々苦笑しながら、「諦めた方が良いよ」と、一言だけ答え、二人の後を歩き出していた。

「ちゃちゃ、これでも食いなさってな〜」
「………」
 防波堤越しの小さな駄菓子屋から鶫がアイスバーを持って出て、雀に押しつける。
 雀はその手元にあるものを見つめ、「はあ…」と、呟いてみせながら、受け取った。
「下心でも?」
 隼人は、鶫にもらったアイスを片手に手渡してきた彼女を見る。
 その横に立つイスカもアイスを見つめて、ぼ〜っとしていた。
「疑りぶかいの〜、は〜ちゃんは…」少しだけ頬を膨らまし、アイスをかじる鶫。
「可愛いお客さんが見えたんやから。ちょっとしたサービスや」
 最後にそう言って、鶫はアイスをほおばってみせる。
「それにしても、雀さん。ここには、みんなはいないわけ?」
「え、あっ、はい…」ちょっと呆然としている雀に再度、隼人は語りかけると、彼女は軽く頷いて、言葉を続けた。
「今日、帰りだったんです。写真旅行の…でも、みんな、わいわい騒いで…部長の自信、無くしちゃったのと、勢いについていけなくて…ちょっとだけ、みんなと離れたいな、と、思って」
 雀は、部員を思い、申し訳なさそうな表情で呟き、渡されたアイスをシャリンと噛む。
「まあ、そんなに気負わなくてもいいよ。僕もたいした事してなかったし…仕事を押し付けて、悪いと思ってるよ」
 少しだけ暗い表情の彼女に隼人は苦笑で返し、にっこり微笑んだ。
「気楽に行こうよ、気楽に…」と言いつつ、隼人は最後に鶫の方を見て、「お気楽すぎるのもどうかと思うけどね」と、付け加えてみせる。
「あ〜、ちゃちゃ、イスカ〜」
 その言葉と隼人の視線が気になったのだろうか。すぐの間に食べ終わった鶫は、隼人の隣でアイスを眺めているイスカの手を取った。
「なんや、そのアイス、気にくわへんのかな〜?よっしゃ、わしが他のを買うたるから、一緒にいこな〜」
 そして、イスカの有無を聞かず、ググ〜っと手を引き、目の前の駄菓子屋に消えていった。
 そんなイスカの姿に隼人は苦笑を洩らしながら見送り…、それから、雀を見て、軽くボヤキをこめて、喋りかける。
「まあ、僕は、あんな感じでここに来たかな?退屈はしてないけど、もう少し落ちついた日々を送ってみたいよ」
 溜め息にも似た隼人の言葉に雀はクスッと笑ってみせた。
「でも、こんな所で…先輩にあえるなんて…思いもしませんでした」
「僕もだよ。…写真旅行では、良いのは撮れたかい?」
「いえ…できあがってからですけど、80点くらいかな…」
「そっか、がんばってるね」
 そんな短いやり取りをしながら、隼人は残りを食べきって振りかえり、防波堤に肘を突きながら、海を見た。
「ここに来て、…いろいろと思ったよ」
「えっ」
「雀さん、あの時、無理言って、ごめん」
「先輩」
「部長を押しつけて、引退した事、…」
「いえ、先輩も写真部を続けていくのが…辛かったのは、私には分かりました」雀は小さく微笑んで、隼人に話しかける。
「それでも、…どんな形でも、先輩の力になれたと思えたら、私、幸せですから…」
 その言葉に隼人は雀を見る。彼女は、ただ恥ずかしそうにうつむいていた。
「ひゅ〜、ひゅ〜、は〜ちゃんはオナゴ殺しやな〜」
 途端、その雰囲気を、なにもかにもぶち壊すようにゲラゲラ笑う鶫が割ってはいってきた。
「もう…」隼人は、なんとなく分かっていたこの展開に頭を押さえてみせる。
「…」雀も雀であまりの事に顔を赤らめていた。
「それで、何の用です?僕に」
 半分、溜め息混じりに隼人は鶫を見ながら質問すると、彼女はニッカリ笑う。
「あれや、わしと一緒じゃ、ぜんぜんイスカ、決めよらへんね。は〜ちゃん、いってきぃ」
 語りながら、隼人の手を取って、硬貨を数枚握らせる鶫。
「…分かりました」隼人はなんとなく、その真意を知り、お金を受け取ると、鶫の顔を見つめる。そして、釘を刺すように一言だけ、言った。
「僕にはもういいですけど、雀さんをあまり困らせる事を言わないでくださいよ、鶫さん」
 その隼人の言葉に雀は、鶫の方を見る。それに対して、鶫はニカニカしながらみていたが、雀の横へと背もたれて、歩き去っていく隼人の背を見送った。
「ま、選手交代ってとこやな、よろしに」

 


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