=第四章・第六部=

陽炎う遮光より来る日

 

 チャキン、…
 風鈴の音に混じって、ハサミの走る音が響く。
「えっと、隼人さん…本当、自信ないですよ…」
 声を少し濁らしながら、雀は隼人のバサバサに伸びた髪にハサミを差し込み、チョキン…と挟み切る。
「構わないよ、どうせ、そんなに気にしてないし…ね」
「頭、動かさないでください!」
 そう言って笑う隼人に、少しだけ声を高め、注意する雀。それにも、苦笑をもらしながら、「ごめんごめん」とだけ、答える隼人。
 彼女がハサミを入れていくと、庭先にその長い髪が散らばり、風によって、さらに周囲へと舞い散っていく。
「とりあえず、後で掃除しないと、怒られるかな」
「…そうですね。お掃除を後でしませんとね…」

 チョキン…と、ハサミが再び、音を立てて、縁側の下に髪を散らばせていく。

「髪を伸ばしてた理由…って、何もないんだけど…」
 ハサミの音と遠くの潮騒と風鈴の音だけが響いていた世界に、隼人が口をはさむ。
「伸ばしだしたのは、あの頃からかな…」
 隼人の昔話らしい言葉。それを紡ぐように呟く中、…雀は無言で、ハサミを彼の髪に走らせる。

「姉と慕う人が…死んだ…時から…」

  チョ…キン

 隼人の言葉を途切るように ハサミが彼の髪を挟み切る。
「写真を始めたのだって、その人の好きな人がやっていたから…」
 そこで隼人は言葉を切り、もう一呼吸分だけ置いてから、「もう少し構ってもらいたいと…浅はかに考えた事で始めただけ」と、自嘲した。

「彼女が死んでから、僕も死んだように過ごしてきた気がする…」

 思い巡らしながら語り、そして、喋りきったのか、口を閉じる隼人。雀は…しばらく、続く言葉を待っていたが、…すっとハサミを手の中に収めた。
「それでも、隼人さん…」そして、胸に手をよせ、雀は言葉を紡いでいった。
「隼人さんがいたからこそ、私は…幸せな日々を送れました」
 そこで一呼吸だけおいて、「自分勝手な事にも思えますけど…」と、自嘲してから、微笑みを浮かべた。
「隼人さんは、そんな気持ちで撮っていたのかもしれません。そういうものだったのかもしれません」
「……」
「だけど、私は隼人さんの写真を見た時、…心動き…あなたという存在がとても素敵なものになりました」
 その言葉に、隼人は振り返ると、雀はただただ、優しい微笑みを見せていた。

「僕は、…変われるかな?」
 隼人の質問…。それに、雀は小さくうなずいてみせたのだった。

 


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