=第五章・第四部=

=夕日に赤く染まる時より来る日=

 

   ………−−−ガチャッ…

 もしもし、四島と申しますが、そちらは犬神さんのお宅ですか?
 えっ、あっはい、…そうですか。いえ、夜分遅くにすいません。…そうです、四島隼人です。
 あっ、いえ、そんな、こちらも鶫さんにはお世話になりました。…いえいえ、…はい。
 まあ、少しだけ…いえ、でも、楽しい旅行でした。…あっ、
 すいません。鶫さん、お願いできますか?…はい、お願いします。

 ………

 あっ、鶫さん、お久しぶりです。…え、まあ、…ははっ。変な事は言ってませんよ。本当。
 …ええ、そうです。…えっとですね。鶫さんなら、知ってますよね?イスカさんの電話番号。
 …そうです。…ええ、イスカさんが僕の家に…えっ、はい、家に着てるんです。それで、彼女の自宅に電話だけでも…
 …っえ、…ちょっと、あの、…ちょっと、待って…

   ツーツーツー

 「くださいよ…って、切っちゃってるし…」

「……どうかしたの?」
 隼人が溜め息混じりの表情で部屋に戻ってくる様を見て、ある程度ではあるが、鶫の答えを予想していた燕も少しばかり苦笑を見せながら、問いかけた。
「まあ、もう予想通りかな…」燕の向かいのソファーに腰を下ろし、隼人はぼやくように呟いてみせる。
「話途中で切られたよ」
「やっぱり…。それで?」
「明日、来るって…」
「…そう」
 短い会話で済ます隼人に、淡々と答える燕が軽く伸びをしてみせた。
「…でも、僕の家、…一応、旅行の帰り、ここまで送ってもらったけど…番号は分かるのかな…」
「大丈夫じゃない?私の家、一応知ってるから、大まかに知んなくても探し出すでしょ」
「アバウトな…」
 そう言いきって、残りのコーヒーを飲み干した燕は、意気消沈気味の隼人を尻目に立ちあがる。
「もう、私…いらないでしょ?帰っていい?」
「えっ」その行為に少し戸惑い、隼人は驚きの表情を燕に向けた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、もし、イスカさんに…えっと」
 慌てて止めようと立ちあがる隼人に、燕は、睨みをきかす。
「ねえ、隼人…」燕は、ゆっくりと口を開く。
「私のこと、嫌い…そんなに、彼女のほうが大事?」
 ただ、先程までの威圧的な口調ではなく、どこか孤立した事への寂しさを含んだものだった。
「…そんな、事はないよ。イスカさんとは、旅行の事があるから、…。」ソファーに腰を下ろす隼人は、言葉を続ける。
「燕さんは、幼馴染みだし…嫌いとか、そういうのじゃ」
「……」隼人の言葉に…燕もまた、ソファーに腰を落とした。
「一日、だよね…」
「…たぶん、…そうだと思う。」
 燕の言葉に隼人は軽くうなずいてみせる。それに、一度思案するような素振りを見せ、「一晩…だけだからね…」と、面を下げたまま、彼女が言葉を返してくれた事に、ただただ、隼人は胸を撫で下ろしたのだった。

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