=第五章・第六部=

=夕日に赤く染まる時より来る日=

 

 カーテンから零れでる眩しい朝日によって、イスカは目を覚ました。そして、彼女の瞳には白い天井が映りこみ、ただ、…凝視し…それから、小さな吐息を吐いてみせた。
 自分の吐く息の音も消え、静まり返る部屋の中で、…微かな寝息が聞こえてくるのに気づいた彼女は、…ゆっくりと天井から室内にと、顔を向ける。
 その視線の中に、自分の部屋では見なれない物と…そして、ベッドの端に寄りかかりながら眠る隼人の姿とが、飛び込んできた…。
 ただ、しばらく…彼女はそんな安らかな寝顔をみせる隼人に見入り、…それから、手を動かし、…その指先を伸ばして、彼の頬へ壊れ物でも触るかのように近づけていく。…そして、その隼人の温かさでもって、彼女の指先を温めていく事に、何かを感じたのだろう、彼女はゆっくりと、先程よりも小さく、息を止めるようにか細い息を吐いてみせたのだった。
「ん…」
 彼女が触れたせいだろうか…。隼人が軽く息を洩らしながら、身震いをしてみせた。瞬間、イスカは指を頬から離し、…手持ちぶたさに浮いていたその手を、…ボサッ…と、ベッドの上に落としてみせる。
「ふ、ん…あっ」
 そんな中、隼人が眼を開けていく。ただ、ゆっくりと…
 そして、軽く頭に手を置きながら、その視線は辺りを見まわすようにめぐらし、…
 自分を見る彼女の顔を見つけ、微笑みほほえみを見せると「おはよう」と、声をかけてみせる。 
「足は大丈夫?ずいぶん、擦りきれていたけど」
「…」
 隼人の問いかけにイスカは見つめ返すだけ…それでも、彼は微笑みを返し、立ちあがろうとする。

「大丈夫だよ」

 彼女の行為に隼人は苦笑を交えながら、諭すようにつぶやいた。
「ご飯を持ってくるだけだよ。今は静養した方がいいしね。大丈夫だから」
 …なんとなく、彼は予想していたのだろう。
 イスカが、べッドに添えられていた彼の手を掴むように、自分の手を置いてきた事には、彼はさほど驚いた様子も見せなかった。
「安心して、イスカさん。僕は君を追い出したりはしないよ」
 隼人は子供に言い聞かせるように、始終優しい笑みを浮かべたまま、ゆっくりとした口調で話した。
「それとも、ご飯はいらない?」
「…」
 イスカは隼人の問いにしばらく無言で見つめ、小さく首を横に振る。けれど、手は離さないままだったのに、上げかけた腰を下ろし、視線が同じ高さほどになった無表情の彼女の顔を見て、隼人はにっこりと微笑んでみせる。
「じゃあ、もうしばらくだけ、一緒にいるよ。落ちついたら、ご飯をよそってくるね」
 その言葉に、…イスカは再び小さく…けれど、首を縦に振ってみせたのだった。

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