=第五章・第七部= =夕日に赤く染まる時より来る日= |
| かちゃり… 隼人の両親の寝室に続くドアが、小さな音を立てて開いた。そして、燕が、少し寝癖のついた髪を掻きつつ、不機嫌な表情でリビングに現れた。 「………」 無言で辺りを見まわし、掻いていた手をダラリとたらすと、壁に寄りかかり、一つだけ溜め息を吐いてみせた。 かちゃっ 「あ、燕さん、起きたの?おはよう」しばらくして、隼人の部屋のドアが開き、隼人が出てくると、そのだるそうにしている燕を見つけ、声をかけてきた。 「今、ご飯を作るところだけど、いる?」 「そうね、…」燕は隼人を 「…ごめん、まだ気分悪いみたいだから…簡単なものでいいわ…」 その後、彼女はただ、 「そう…じゃあ、トーストでいいかな?二枚?」 「…軽めに焼いたの、一枚でいいわ…飲み物はコーヒーでお願い…」 キッチンに入る隼人を横目で見ていた燕だったが、しばらしくて、「あいつ…彼女は?」と、問いかける。 「イスカさん?…まあ、少しは落ち着いたようだよ…ただ、怪我の具合が良く分からないかな…」食器のカチャッと当たる音と一緒に、隼人はその言葉に答える。 「今は、あまり詮索しないでおこうと思うんだ。よっぽどの事がない限り…あんな状態になるとは思えないから…」 質問をしておきながら、隼人の言葉を半ば流すように聞いていた燕の耳に、トースターのチンッという音が聞こえてきた。そして、カチャカチャと手元忙しげにする隼人が「何か塗るものはいる?」と、尋ねてくる。 「…バター…、んっ、ジャムは何かある?」 「ジャムは、…オレンジかな?残ってるのは」 「じゃあ、バターだけでいいわ」 彼女はそれだけ言い、ソファーに深く体を埋め、不快なモノを押し出すような嘆息を吐いた。 そんな彼女の前に隼人はカチャンとトーストの乗った皿とコーヒーを置く。 「ありがと…」燕はうなだれたまま、言葉を漏らした。 「隼人は…食べないの?」 そう言いながら、見上げた燕の目に、昨日の夜と同じく土鍋を持った隼人が映る。 「イスカさんに届けてから、準備するよ。先に食べてて」 隼人の口から出た、イスカという単語に、さらに不快感が増した燕。その言葉に、吐き捨てる息と一緒に一言だけ、「…そう」と、告げてみせる。 それを聞き、「また、後で」と、隼人は呟いて、カチャン…と、自分の部屋のドアを閉めた。 …燕は、少しの間、だるそうにそのドアを見つめていた。 その後、視線を落とし、トーストにバターを塗りつけ、カリッとかじり、飲み込んだ後、小さく呟いてみせる。 「…馬鹿みたい」 |