=第五章・第八部=

=夕日に赤く染まる時より来る日=

 

   ピンポ〜ン
 正午を迎える直前、玄関のチャイムが隼人の家に鳴り響く。
「…」イスカの傍にいた隼人はその音に対して軽く思案した後、立ちあがったが、その視線を、横になっているイスカに向けた。
「少し、見てくるよ…いいね?」
 無表情なままで彼の言葉を聞いた彼女は、なんの抵抗もなく、小さくうなずいてくれた事に、ただただ、彼は胸を撫で下ろしてみせ、ドアへと足を進める。
   ピンポ〜ン
 彼が部屋を出た時、再び鳴らされるチャイム。その音に、ソファーの上で膝を立て、頭を押さえる燕が「…はあ」と、溜め息を吐いてみせる。隼人自身もまた、誰がきたのか…なんとなく、分かってはいたので、彼女の憂鬱ゆううつげな表情に苦笑を返してみせた。
「隼人…」玄関に向かう隼人に燕は声をかける。
「心構えた方が良いと思うわ…」
 燕の忠告に隼人も「分かっているよ」と答える中、ピポピポ〜ン、と、今度は、連打する音が聞こえてきた。
「すまないけど、お茶の準備お願いできるかな?ある場所、わかってる?」
「一応、…やっとくわ…」
 やれやれと思いつつも、隼人は燕にそう言って、だるそうにソファーを立った彼女を見た後、自分も玄関前にと向かった。

   ピンポン ピンポン ピンポ〜〜〜ン

 隼人は、…一息だけ、おく…。そのドアを開けた瞬間、向こうから飛びこんでくる言葉に耐えれるように…

   ピポポピポピポピポピポポポポ〜〜〜〜〜〜〜ン

 痺れを切らしたような散弾音にもかかわらず、彼はそんな音を無視するように、ドアの鍵を外し…、取っ手に手をかけて、ゆっ…くりと回す。
「やっと出よったんか!遅かで〜!は〜ちゃん!!」
 ドアが開いた瞬間、見なれた小麦色の肌の女性…鶫が、まったくの予想通りに、かなりのしかめっ面でまくしたててきた。
「あ…、ん…、ごめ…ん?」
 少しばかり消沈しながらも謝る隼人に、さらにまくしたてようとした彼女。…の後頭部が拳で殴られた。
「たく、鶫、いい加減になさい。相手様に非があるわけじゃないでしょ。というか、あんたが悪い!!」
「…ったぁ、姉や、何しやんのか!!」
 後頭部を押さえ、軽くうつむく鶫…、その光景は彼の予想しえないものだった。
 未だ頭を押さえつつ、矛先を隼人から自分の隣りに立つ人に変え、顔を上げた鶫。に、再び、今度はその鶫の顎へ綺麗なアッパーが決まり、もんどりうって倒れる光景が隼人の目に入った。
「あんたの口答えは、結構!!」
 そんな鮮やかな鶫のいなし方に、隼人は一瞬、ポカン…と見入ってしまう。
「あら、申し訳ない」一連の動作を終えて、手を叩いていたが、呆ける隼人の顔を横目で見た女性…察する所、鶫の姉…が、気を取り直したように彼の方を向き、頭を下げてみせた。
「私、この馬鹿タレの姉、犬神華鳥と申します。少々、失礼な所をお見せしましたね…」
「あ、いえ…、…えっと、四島隼人…と言います」
 隼人は少し生返事な言葉を返しながらも、その視線だけは顎と頭を押さえてうずくまる鶫に向け、「まあ、立ち話もなんですから…中にどうぞ」と、とりあえず、今時点で言える言葉だけを言いながら、二人のためにドアを大きく開いてみせたのだった。

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