=第六章・第五部=

月食われた闇の時より来る日

 

「聞いてあきれるわね」

 凛とした声が響く。女性の声でもない。もちろん、三人の声でもない。
「自分の腹、痛めて産んだ二人の姉妹を薬物漬けにして、世界の病魔撃退?聞いてあきれるわ」
 声のするほうにと、四人は目を向ける。…そこに腕組み、仁王立ちした智恵美がいた。
「九白…先生」
 雀は小さく呟く。その声が届いたのだろう、智恵美は三人に微笑みかけ、「大丈夫よ」と、言った。
「宝家助教授、今日は引き取っていただけるかしら?あなたの夫、宝家教授には丁重に帰っていただいたわ。後日、お二人を相手に、私じきじきにお話を承ります」
「…九白次長に出られましたら、仕方ないですわね…。帰りますわ」
 智恵美の登場に女性はただ肩をすくめてみせ、それから、イスカを見た。
「…宝家助教授、イスカさんは、ここに残ってもらいます。…問題はないでしょう?」
「なんで、イスカを残さないといけないのでしょうか?次長であっても、それは!!」
 雨の降る音に負けず響く、低くすんだ智恵美の言葉に、女性は声を張り上げ、食って掛かった。その彼女の表情を少し遠目越しに見ていた智恵美だったが、ただ、鼻先で笑うように、一息だけ吐いてみせる。
「違うのでしょう?…」温厚な話し方だった智恵美の声質が変わる。…、息の根を止める怒気を含んだ低い声でもって、智恵美は言葉を刻みだした。
「残念だけど…、あなたは私達をみくびっているようね。…あなたの夫が喋ったわよ」
 イスカ達の前に立ち、女性をただ睨み付ける智恵美。
「病魔克服の新薬の開発?違うわね、あなた達は新薬の開発ではなく、いかに依存性の高い麻薬を作り出すかを研究していた。本来麻薬も、鎮痛剤としても用いる事もあったものね。格好の隠し要素だったわけね」
「…何を」
「その研究を依頼したのは、どこかしらね。もちろん、そんな事も調べれば、すぐにつくでしょうけど」
「次長、根拠は」
「…私達の作り上げてきた"ShadowBlain"の名を汚す事を平然とやらかしてたなんて、夢にも思わなかったわ…。まさか、教授陣に出てくるなんてね、…盲点よね」
「…」
「非常に残念であったわ。あなたの夫の目の輝き、…もっと立派なものを持っていたのに…。あなたが、…嫁ぐまでは…ね…」
 二人は短くやり取りをしながらも、智恵美は女性の前に歩み寄り、そして、その目の前で立ち止まる。
 そして、近づいたことで、さらに低く、脳髄にも響く声でもって、女性に忠告をした。
「今、この場で亡き者にされるか、明日改めて処分を受けるか、…選びなさい!!」
「…そんな事をして、社会が…マスコミが黙ってると思って…」
「それが本当に、世界にあなたの声が響くのなら、やってみせなさい…」
 女性の最後の抵抗にも見える睨みに、この場にいる誰よりも背の高い智恵美が…先ほど、三人に見せていた女性の視線を真似て…、見下す視線を見せる。
「残念だけど、この町、原線路界町が…どう出来上がったかも知らないあなたに…私を含め、"ShadowBlain"を相手に、どうこうできるものじゃないと知りなさいな…」
 その威圧度が増した視線でもって、女性は蛇に睨まれる蛙のように動きを止める。
「金の亡者と子供をいたぶる様は虫唾が走るのよ…どの世界でもね。もう一度言えばいいかしら?」
 一度、智恵美は息を吸い、眼光を細める。

  「失せろ…下種!!」

 その眼差しには、…女性の心臓を抉り抜くような…強烈な殺気を宿していたのだった。

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